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カンゾウの花に亡き父を想う

カンゾウという花をご存知だろうか?

オレンジ色で花弁の形はユリに似ている。

八重咲の「ヤブカンゾウ」。一重で咲く「ノカンゾウ」など、いくつかの種類がある。一般的には朝に咲いて夕方には枯れる花と思われているようだが、夕方に一旦しぼみ、翌朝に再度花弁が開くモノもあるのだという。

正直、私の感覚としては、カンゾウは、一日限りの花だと思っていた。朝に咲いて夕方にはしぼむ花だと思っていたのだ。

そう思ったのには理由がある。

一日限りの花であることを理由に、亡き父はカンゾウの花を好きだったからだ。



誰にとっても悩み多き人生。

ただでさえ悩みは尽きない。時にはそれを承知で、悩みを増やすような生き方を選ぶこともある。

未知の世界を開拓しよう、手広く人と関わっていこう。そう思えば思うほど、悩みは増す。それらの悩みと真剣に向き合えば向き合うほど、深みにはまるのだ。

そういうことを「実体験から導き出した真実」として捉えていた父。悩み苦しむことを甘受しながら、「今、ここにだけ集中する」「今日一日を精一杯生きる」ことに意識を向け、苦難を乗り切ってきたのだという。

「今日一日を精一杯生きる」という気持ちを新たにするとして、朝に咲き、一日で萎れていくカンゾウの花に心惹かれていたのだ。

実家の庭に植えられているカンゾウは、おそらく「ノカンゾウ」ではないかと思う。一重で咲く「ノカンゾウ」は、一日限りの花を咲かせるからだ。



父が好んだこの花を、我が家の庭にも植えることを画策している。

野に咲く花を手に入れるには、咲いている花の姿を探し、種がデキる頃に再度その場所を訪れること。自然を好んできた私がたどり着いた方法だ。

長年の勘を頼りに、野山を歩く。

見つけたカンゾウは八重咲の「ヤブカンゾウ」。今回はダメだったけれど、また次がある。そういい聞かせながら汗を拭くと、気持のよい風が吹いてきた。

「ノカンゾウ」の花を探して歩きながら、亡き父のことを思う。

「今日一日を精一杯生きる」という気持ちが、いつか私のことをも救ってくれることを願いつつ。