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【対談#2】地域おこし協力隊×チャレンジフィールド北海道「新しい北海道の歩き方」

「将来世代のために、希望あふれる地域社会を共につくりたい」
「人と組織と地域が『自分ごと』として関わり、共に成長したい。」
そのために私たちができることとは、どんなことでしょうか?

第2回の対談相手である小沼雅義さんは、現役大学生ながら休学して(現在は復学)美瑛町の地域おこし協力隊として活動するだけでなく、北海道の地域資源を活用した事業で起業しています。多様なフィールドに自ら飛び込み、まわりを巻き込み、時に助けられながら突き進む小沼さんと、チャレンジフィールド北海道の山田総括との対談から、「新しい北海道の歩き方」について考えてみたいと思います。

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小沼雅義さん(22)帯広市出身。
美瑛町農林課 地域おこし協力隊(フリーミッション型)
明治大学農学部食料環境政策学科4年生

―――――小沼さんの地域おこし協力隊としての活動や、起業内容について教えてください。


 小沼さん(以下小沼):もともと知り合いだった岩岡先生に紹介してもらったことがきっかけです。美瑛町は農業由来の観光が成立しているおもしろい地域だと思い、紹介されてすぐ応募しました。

 山田総括(以下山田):一般的に地域おこし協力隊というと、「広報」や「農業振興」のように任務が決まっていることが多いなか、「フリーミッション型」というのはどういうことですか?

 小沼:これは文字通り「ミッションがフリー」です。もともと僕は、地域プロジェクトマネージャーとして地域に入り込み、地域資源を発掘し商品化するようなことがしてみたかったんです。なので自由に活動ができるこの仕事は、自分に合っていると感じています。

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その中で今取り組んでいるのは、ワーケーションのような形での企業誘致などで、来年度から本格的に活動の幅を広げていきたいと考えています。9月末にイタリアで開催される「テッラマードレ」という食のイベントにも出展し、世界の中心で美瑛町の食材をPRしてきたいと思っています。

 山田:地域おこし協力隊の他にも、十勝地方で活動をされているのですよね。

小沼:十勝でヤナギの薪の生産を行い、コンビニで販売してもらっています。ヤナギはどこにでも生えるので農地を耕す農家にとっては少しやっかいな植物なのですが、薪にしてもすぐに燃え尽きてしまうことが難点でした。でもキャンプやアウトドア用としては、すぐに燃え尽きてしまう方が安全面でありがたいのです。そのため、キャンプ・アウトドア用の薪としての販売をするための合同会社を設立しました。同様にカラマツチップの販売も予定しています。これも、浦幌町内の農家さんからのご紹介がきっかけでした。

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ヤナギとカラマツのウッドチップ

 山田:話をうかがっていると、小沼さんは「人のつながり」からいろいろな可能性を広げていると感じますね。それもひとつの地域に収まらず、出身の帯広、大学の東京、仕事をしている美瑛や浦幌など、さまざまですね。

 小沼:明治大学では小田切特任教授に師事し、地域ガバナンス論研究室で関係人口論を専攻しています。そこで、農村地域の人がどれだけ外の人と関われるかがまちの発展に影響することを勉強しました。そこが自分の根幹にあると思っていて、ひとつの場所にとどまって活動するより、外に出て話を持って行ったり人を呼んできたり、といったことが重要だと思っています。

 

―――――大学在学中に地域おこし協力隊になった小沼さんですが、小沼さんにとって大学とはどんなところでしょうか。

 

小沼:大学では自分の好きなこと・興味のあることを明確にできるのではないか、という期待があって入りました。そしてそれが東京ならば刺激的な毎日が送れそうだなと。ただ僕の場合、早い段階でやりたいことがわかったということもあり、早々に外に出て現場の実践者のもとでインターンをさせてもらったり、さまざまな人と会って大学では学べないことに触れたりしていました。新型コロナウイルスの影響で大学のキャンパスにいることができなくなったということも、ひとつの要因です。

 山田:私も大学を選ぶときの条件は「四国から出る、親元から離れる」ことだったけれど、小沼さんのように「自分は何をするべきなのか」と考え始めたのは、社会人になり様々な壁やコンプレックスにぶつかった時だったように思います。小沼さんは私の時よりも早く考え始めて行動しているし、何より動機が前向きで健全に感じますね。人生に悩んだことはありますか?

 小沼:それなりには悩んでいると思っているんですが(笑)。
僕は悩んだり問題が起きたりした時、まわりにすぐ相談するようにしています。そうするとだいたい大したことはないとアドバイスがもらえます。悩みだと思っていたことを克服することで、かえってそれが自分の糧になるような感覚があるので、もしかしたら悩みがストレスになっていないのかもしれないですね。

 ―――――悩みは自分の内側でもんもんと巡らせるものだと思っていましたが、自分の悩みや考えをオープンにできるのはZ世代特有でしょうか。


 山田:若い人は自己発信や自己表現が自分たち世代よりも得意だし自然にできるのかもしれないですね。小沼さんを見ていると人間力があることはもちろん、その結果としてまわりの人が手伝ってくれ巻き込まれている。それは誰しもができることではないから、不思議な魅力があると思いますね。やはり悩みや困ったことをまわりの人にすぐに言えることはすごいと思います。

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 小沼:言われてみれば、同世代は友達との間で身の回りのことをどんどん共有したり悩みを発信することが多いですね。僕の場合は何も言わなかったら“ただの背の高い柔道人間(※)”にしかならず、自分から発信していかなければ状況は変わらないと思っています。「動かない・変わらないこと」への恐怖心はあるかもしれないです。
※小沼さんは柔道歴17年です。

―――――「動かない、変わらないこと」は、「機会損失」であるという考えですね。

 山田:大企業も往々にして、「機会損失」の深刻さ・重要性をあまり重視しない傾向があると思いますね。形として残るような「見える成果」が有益で、残りが全部「無駄」というのは間違いで、無駄かどうかなんて実は誰にもわかりません。一見無駄に思えることも例えば人材育成につながっていたり、これまでには無かったネットワークができていたり、こうしたことが次に何かを起こす時の無形資産になります。できる・できないの判断はあるにしても、可能ならどんどん挑戦してその都度見直して、場合によっては途中で塩漬けして、それでいいと思うんですよね。

 小沼:無駄に見えるものはないというのは同感です。メルカリでも、自分ではいらないと思っていたものが売れる時代です。ヤナギの薪も、地元の農家さんにとっては無駄だったものがキャンプ場に持って行くことで新しい価値が生まれました。ひとつの土地や地域にこだわらず、さまざまな場所へと渡り歩き知見が広がることで、つまり動けば動くほど無駄が無くなるんだなとわかりました。

 山田:情報発信をしてチャンスを探っていたら、成就する機会がやってくるということですね。

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―――――小沼さんから山田さんと話してみたいことはありますか?

 小沼:チャレンジフィールド北海道は「産学融合」をめざしていると聞きました。日本の農業は、産学官連携によってどうあるべきだと思いますか?例えばオランダには「フードバレー」があり、そこがプラットフォームとなってヨーロッパのさまざまな食関連の企業と研究機関を結び付け、オランダを一大農業国に押し上げました。

 山田:何においても私がいちばん大切だと思うのは、「何の旗を掲げるか」だと思っています。確かに自給率の低い日本にとって、オランダのように先端技術で収穫率を上げることは大事かもしれない。でも農業や食にとってもっと重要なことは、毎日誰かの口に入るものの「安心・安全」を守ることなんじゃないかと思いますね。また、農業に携わられている方々のQoLやワークライフバランスの向上も同様です。

経済合理性を突き詰めることで農業は効率化し収益も上がるので、その重要性は否定しません。その上で、農業の営みが生きがいや働きがいにつながるとさらに良いですよね。例えば、生産者と消費者のお互いの顔がみえるようになるとか、単一品種栽培から多品種栽培も取り入れるとか・・これは帯広街づくり意見交換会で盛り上がりましたよね・・。北海道がオランダを模倣する必要はなく、人視点、生活視点の多様な観点からめざすべき農業を描いたらどうでしょう。首長やJAに旗振りをしていただいて、哲学や理念、めざす方向を共有する仲間が集まり、産も学も融合しながら進められるといいなと。

 小沼:オランダは経済合理性を突き詰めていく農業、日本は安心・安全やガストロノミー的なおいしさにつながる農業つまり、多くの人の胃袋を“満たす”のではなく、“つかむ”ようなことが日本の農業のあるべき姿なのでは、と思いました。

 山田:今は効率化のためにあらゆるものが細分化されていますが、細分化を外し総合的な見方や工夫ができるところが日本の可能性でもあるし、もともと得意なところではないかと思いますね。

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  ―――――最後に、小沼さんの野望を教えてください。

 小沼:出身地である北海道を、世界に名だたる農業・食産業のクラスターを擁する地域として創造していきたいと思っています。僕は、さまざまな強力なプレイヤーを調整したりする「農業・食分野のプロデューサー」的な役割が担えたらと思います。

 山田:やっぱり小沼さんは、「小沼さんならできる!」という期待感を持たせますね。立場は違うけれど、私たちもまったく同じことをめざしています。今は、大学や自治体などそれぞれの組織がそれぞれの課題や意思で動いています。これからは、全体としてある方向性に向かい、大学・地域企業・自治体・NPO・市民などがうまく連携してコミュニティをつくり、いろいろな性格の活動が自発的に起こるようになってほしいと思っています。さらにその起こったものがお互いにうまくつながって北海道が良くなるようなことがしたい。チャレンジフィールド北海道の役割は、各現場にいるタレントを持った人たちがつながり共創できる仕組みをつくり、活動をコーディネートすることだと思っています。

 小沼:やりがいがあることですね。成し遂げたときにものすごいことが起こると思います。学んでいた「関係人口論」から、まさかここにたどり着くとは思っていませんでした。

 山田:意志や思いのあふれる人たちや、そのきっかけをもった人たちがより活躍できるようになり、その先に北海道がより良くなるようなことがしたいですね。

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小沼さんは「残り1単位」を残して休学をしていたのだそう。その「1単位」というのがなんともシンボリックだと盛り上がりました。ただ、単位を取りに行くことより、現場で話を聞き経験を重ねる方が価値のあることだと気づいた小沼さん。自らの気づきや体験から得た確信に基づいて実際に行動を起こし、困ったときにはまわりにすぐ相談をするという小沼さんは、自分にも他人にもとても「素直」であると感じます。そんな小沼さんだからこそまわりは信頼し、喜んで協力したくなってしまうのだと思いました。「本音」で「表裏なく」、「信頼」に基づいた関係性こそが、「新しい北海道の歩き方」には重要なのかもしれないと感じました。(和田)

 

 

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