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世界で最もイノベーティブな組織の作り方

本書は、ボストンコンサルティングや組織開発のヘイグループで人材育成を専門としている山口 周さんの著書。Kindle Unlimitedでよめます。


山口さんは、日本におけるイノベーション停滞の本質的な要因が、「組織」と「リーダーシップ」の2つにあると考えています。

第一章「日本人はイノベーティブか?」では、個人としての日本人の成功事例を多数紹介し、問題が個人ではなく「組織の創造性」にあると主張しています。

東芝の技術顧問でありながら南極越冬隊の隊長でもあった破天荒な西堀栄三郎も、1984年当時にこんな言葉を残しています。

「日本人は、個人としての創造性はある。これが組織になるとさっぱりになるのは、組織内に小姑のような人が居て色々とケチをつけたり混ぜ返したりするからだ。だから日本人に創造性を発揮させたければ個人を鍛えるよりも組織のあり様を変えなければダメだ」

第二章から「組織風土」に焦点をあて、「人材の多様性」「上下間での風通しの良さ」「失敗に寛容な文化」について考察し

第三章では「組織構造」について「ネットワーク密度」「組織における遊びの存在」「非線形で柔軟なプロセス」を解説し

第四章で「リーダーシップ」、第五章で「イノベーティブな組織」に求められることを展開しています。

雑誌『Science』の最高経営責任者アラン・レシュナーと、『科学革命の構造』の著者である科学史家トーマス・クーンは、以下のように主張しています。

「近年の主要な科学の進歩は、複数分野が関わっているケースがほとんどだ。著者が1人だけという論文自体が最近は珍しいし、著者が複数の場合、それぞれが異なる分野の研究者であることが非常に多い」(アラン・レシュナー)
「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間の多くが、 年齢が非常に若いか、 或いはその分野に入って日が浅いかのどちらかである」(トーマス・クーン)

つまり異なる分野のクロスオーバーするところにイノベーティブな思考が生まれる、ということです。

新参者がイノベーションを成し遂げた事例として、進化論で有名なダーウィンを例にとっています。

彼は生物学者ではなく地質学者であったこと、「地層はわざうかな作用を長い期間蓄積させて変化する」ことが動植物でも同様のことが言えるという仮説を思いつき、マルサスの『人口論』の「食料供給の限界が人口増加を頭打ちにすること」を組合せて、種の存続には環境に適応し変化することが重要という仮説につながったこと。


リーダーシップの考え方にも、面白い主張をしています。

日本人は「権威」と「リーダーシップ」を一体のものとして認識してしまうという奇妙な性癖を持っています。しかし、リーダーシップは本来、権威によって生まれるものではありません。それは責任意識によって生まれるものです

つまり、権力者がリーダーシップを発揮すべきだと思いこんでいるが、イノベーションを起こすためには権限のない人が自らの問題意識に基づいてリーダーシップを発揮して行動することが重要、ということです。

「日本人は、目上の人に対して意見したり反論したりするのに抵抗を感じやすい」という事実と、「多くのイノベーションは組織内の若手や新参者によって主導されてきた」という事実は、日本人が組織的なイノベーションにはそもそも向いていないということを示唆しています。

目上の人へ反論する抵抗感をなくすため、「聞き耳のリーダーシップ」を発揮して、反対意見や異なる発想をきく姿勢が求められる、と主張します。


続いて、第三章イノベーションの目利きでは、直属の上司が個人で目利きをすることのリスクについて説明します。上司が可能性に気づかない限り拾う神は存在しない、という状況では、イノベーションは起きにくいため、部門を超えて管理職に働きかけられるようにアイデアを持ち込めるようにすれば、他部門の部門長が商品化した3Mのポストイットのような商品が生まれるようになるということです。

さらに、合理的な解では適切に意思決定しえないことも説明しています。

経営においては「合理的な解は、そもそも合理的な解になり得ない」というパラドックスを持っているということをよく再確認しておいたほうがいいでしょう。合理的というのは論理的に正しいということですが、論理的に正しいことを追い求めれば解は必ず他者と同じになり、しかもスピードは遅くなります。ところが戦略というのは本質的に差別化とスピードを求めますから、ここには二重のパラドックスが発生することになります。

ではどうするか。山口さんは、「正しい決め方を決める」ことに意識を集中すべき、と主張します。「賢い意思決定を行う集団」に見られる4つの特性は、以下です。

「多様性(バックグラウンドの異なる人々の集まり)」        「独立性(他者の意見に左右されない)」              「分散性(自分なりに情報を取得する手段がある)」         「集約性(意見をひとつにまとめるメカニズムの存在)」

優れた個人の意思決定能力のほうが、雑多な集合よりも優れていると考えてしまいがちですが、そうではないことを「コンドルセの定理」で説明します。この事実は、多くの人にとって目からウロコかもしれません。

コンドルセの定理を簡単に説明すると以下のようになります。  解答の選択肢が二つある場合、集団を形成する個々のメンバーが 50%以上の確率で正しい解答を選択できるのであれば、集団内の多数派の判断が正しくなる可能性は、集団が大きくなるにつれて 100%に近づくというものです。たとえば、一人一人が正しい解答を選ぶ確率が 60%の場合、多数派の判断が正しい確率は 17 人の集団の場合 80%、 45 人の集団の場合 90%になります。

この定理には、重要な前提があります。

1.集団内の個人は独立していなければならない           2.集団内の個人は互いの意見に影響されてはならない         3.偏りがあってはならない                    4.全員が同じ問題に答えようとしなければならない         5.正しい答えを導くのに必要な情報がなければならない       6.問題には正解がなければならない

時代遅れの専門家のブラックボックスな意思決定を過大評価せず、不特定多数の集団による意思決定こそ、これからの経営で必要とされる方法なのかもしれません。トヨタも使っているVISITS TechnologiesのIdeagramも、その方法をかんたんに実現するツールです。

第4章ではイノベーションを起こせるリーダーのあり方を説明します。

6つあるリーダーシップのスタイル、どのスタイルがイノベーションに向いているのでしょうか。

イノベーティブな会社では、ビジョン型が多く、業務レベルへの介入は最小限にしながらゴールを明確化しているスタイルが多いようです。

ではその重要なビジョンはどのように創るべきなのか。ビジョンを共感できるものにするためには、「ここではないどこか=Where」を目に見えるように鮮明にし、わざわざWhereを「目指す理由=Why」を示し、「納得できる実現方法=How」を具体化する必要があります。

よいビジョンの例として1つだけ、アップルのビジョンを言葉にまとめると以下のようになります。

Where 人類の知性にとって自転車のような道具を、普通の人々に提供するWhy 自由になるためには知性が必要である            How テクノロジーとリベラルアートの交差点をレバレッジする

第五章は、どうやってイノベーティブな組織を作るのか、の説明です。

事業ドメインをまたがった異動経験の回数とイノベーション実現には正の相関があることや、経験的に学習された行動や意思決定のパターンの集積である風土を変えることの必要性とTipsを示しています。

多様性が尊重される組織風土に転換するためには、人と異なること、ユニークであることによって何らかのポジティブなフィードバックが行われること、そして「ああ、こうすると得になるんだ」という強化学習、いわゆる「オペラント条件付け」が行われる必要があります。

最後に、イノベーションという言葉そのものからも、素晴らしい教えがあるので紹介します。

イノベーションという英語の語源になったのはラテン語の動詞「innovare=新しくする」ですが、この言葉は「in=内部へ」という方向を示す接頭辞と「novare=新しくする」という動詞の結合で生まれた合成語です。つまりイノベーションという言葉は、もともと客体ではなく主体、つまり「自分を新たにする」という意味を持っていたのです。

外へ外へと意識が向かいがちですが、「本来イノベーションとは、自らを新たにすることである」という意識をもつことが、取り組むべきことは何か、どのような姿勢であるべきかについて見直すきっかけになるかもしれません。