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新規事業のための「恐れのない組織」(3/3)

恐れのない組織を実現するために

前回は、iPhoneという脅威が現れた当時のノキアに欠けていた、共通の危機感や目標と、「きっと、わたしたちならやれる」という互いに認め合う、将来を期待できる組織的な安心感について取り上げました。

そこで気になったは「組織的な安心感の原動力ってなんだろう」というポイント。危機感は人を行動に駆り立てる出発点になるけど、「恐れのない組織を作りたい」と組織の多くの人々が思うためには、何がきっかけになるのか、というもやもやです。

もやもやをひとまず置いておいて、この本の1つの結論である、リーダーのためのツールキット(アクションアイテム)をみてみましょう。

恐れのない組織をつくるためにリーダーがなすべき務め

大きく3つのステップ。まずは組織で期待と意義を共有するための「土台をつくる」。次に、自分の発言が歓迎されるという確信をもってもらうために「参加を求める」。最後に継続的な改善と学びへの意識をつけるため「生産的に対応する」。

このステップを先程のもやもや『組織的な安心感の原動力』の視点からみると、組織的な当事者意識(我々がすべき)や組織的な有能感(我々ならできる)といった組織が組織である理由、『組織の存在意義』が1つの原動力なのかもしれません。

原動力というと、一般的には外へ力を発揮するイメージをもちますが、恐れのない組織を捉えるためには、組織を主語に、自組織の中に生まれる力を育むイメージをもつ必要があるのでしょう。危機感は「今のままじゃまずい」と外へ遠くへ向かう『遠心力』であるのに対して、存在意義は「このメンバーといたい」と内へ近くに向かう『求心力』。課題を解決するための否定からではなく、自分たちの魅力を受け入れ合う『受容の意識』をもつこと

新規事業のための「恐れのない組織」をつくる

では、企業内で新規事業に取り組む人々(とくにリーダー)にとって、恐れのない組織をつくるために必要なことはなんだろうか。

新規事業チーム内

0.率直な意見の必要性を理解する(新規事業は1人では出来ない)
1.会社の存在意義を明確にし、チームの目的と紐付ける(新規事業部門全体の存在意義には、囚われない)
2.チームで、知恵や視点を共有し、意見や感覚を引き出せる時間をもつ(タスクの洗い出しによる効率的な作業分担のための会議ではない)

0.はチームの前提を合わせる上で必要なポイント。少なからずメンバーから同意を得られたら次のステップに移る。(「率直な意見がでていない」という話を繰り返しすると、反感や反発のほうが大きくなりそうなので)

1.では「新規事業部門全体の存在意義」という、あいまいで具体的に決められないことには、あえて取り組まないことをおすすめしたい。あくまで会社の存在意義と、チームの目的に集中すべきだ。(部門の存在意義は、いくら議論しても「そもそもそれは部門長や経営層が決めるべきこと」となりがちだし、組織設立当初と現在とで乖離が生じてしまっているからだ)

2.は進捗共有会議とは別に、直近の作業分担ではなく、普段感じている不安や違和感あるいは期待や展望を共有し、メンバーの感覚的なものに向き合う時間だ。月に一度の「ふりかえり会」として実施し、率直な意見を引き出す問いかけを投げかけていけられるといい


新規事業チーム外

3.徹底的に失敗を予測する評価専門チームをつくる
4.応援する文化を育む(あるいは、本体からなるべく距離を取る)


3.失敗予測評価のスペシャリスト集団は、本書でも紹介されているGoogle Xの『Rapid Evaluation』を参考にしたい。(Xのブログでも何度か紹介されているので、気になる方はそちらからチェックください)

チームはどうしても「どうすれば成功できるか」に意識が向きがちなので、「どうしたら失敗するか」の視点からの分析は不足してしまう。月に1回1時間だけの報告会で、とくにそのテーマに詳しくもない管理職が、その場の直感でアドバイスするだけでは失敗は避けられない。(もちろん的確な指摘もあるが、網羅的ではないのは間違いない)

4.の応援する文化は(チームのリーダーが取り組むべきかはさておき)新規事業部門としては非常に重要だ。新規事業テーマが進展すると、事業部内で成長させるフェーズになり、今まで当事者でなかった社員の協力を要請する必要がでてくるが、そのときになって急に相談されても、当事者意識はもちようがない。例えば新規事業に限らず、新たなことに挑戦してきた社員をピックアップし「うちの会社にも、こんな人たちがいるのか」と認知してもらい、「自分も何か貢献したい」という思いを育んでおけると、新規事業の成長に伴ってスムーズに社内で協力者を見つけやすくなり、組織的課題による失敗確率を下げられる


チーム内の取り組みは個人でもすぐ始められるが、チーム外の施策には協力者・賛同者が不可欠だろう。「Googleとうちの会社は違う」「応援する文化をつくる部署なんてない」という反対意見もあるだろう。

そうした意見を乗り越えて「自分たちが、なんとかしないと」という思いをもち行動に移す人もいることにも目を向けたい。例えばONE Japanという大手企業の若手有志団体の集団の書籍には、等身大の社員の挑戦がいくつもあるので、いい意味で「自分にもできそう」と思えるはずだ。

組織を変革することは1人ではできないが、目の前の一人ひとりや自分のチームを変革するところから組織変革は始まるはずだ。はじめは小さく見える挑戦と努力の積み重ねも、5年10年続けていけば、人と組織を変えていけると信じて。