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『ドーナツ経済学が世界を救う』の読書感想(後編)


こんにちは。先週に続き、残ったドーナツの半分をまとめてみました。

経済は機械のような単純なものじゃない

はさみのかたちをした左の図は、「市場でどのように価格が決まるか」を説明してくれる、機械的で、予測可能で、安定的な世界。

しかし、経済も市場もそんなに単純でシンプルなものではありません

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「現実と向き合おう、世界とはめちゃくちゃなものなのだ。世界は非直線的で、乱雑で、混沌としている。世界は動的である。世界はいつもどこかほかの場所へ向かう途中にあり、数学的に整った均衡状態にはない。世界は生き物であり、進化を続けている。世界は均一性ではなく、多様性を生み出す。だから世界は楽しいのだ。だから世界は美しいのだ。だから世界はなりたっているのだ」
(システム思考の提唱者 ドネラ・メドウズ)

有機的に様々な要素が相互に関係しあい、複雑に絡み合っている、ネットワークでありシステムである、と捉えるほうが実態を捉えやすくなります。

システムには『自己強化型フィードバック』と『バランス型フィードバック』があり、正の循環により成長がさらなる成長を生む一方、負の循環が過剰な成長を抑制したり、相殺する力として働きます。

企業が増えると労働力が増え、更に企業が増える。(十分に人が確保できるとしたら)一方で、企業が増えるほど、自然環境は破壊されてしまい、資源の減少により企業の成長に抑制がかかります。製造業だとイメージしやすいかもしれません。


土地も知恵も、みんなのもの

国が豊かになるにつれ不平等は拡大するが、やがて小さくなっていく。

というノーベル経済学賞受賞者、クズネッツの主張は、受賞から20年後に検証され、「そんな規則性はない」ということが明らかになりました。多くの高所得国で、所得分配の差が広がってきており、経済成長だけで不平等がなくなるわけではない、という事実に向き合う必要がでてきました。

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不平等の解消のため、経済成長が進むのを待つのはやめよう。そうはならないから。代わりに、設計により分配的な経済を築こう。(p.199)

これから必要なのは、自然界の生態系にみられるような『ネットワーク』であり、多様性であり分配です。

例えば『土地』はだれのものでしょうか。

お金を払えば、土地はすぐにその人のものになります。交通の便であったり、近くにある本屋さんだったり、優良な学校だったり、そうしたあらゆるものがその場所から得られますが、本来それはコミュニティのものであり、いまだけでなく将来を含めた人類のもののはずです。

そのため、「土地を手に入れ、働くことなく豊かになる地主に対し、課税をすべきだ」とヘンリー・ジョージは主張し、彼に共感したフェイ・ルイスはじぶんが土地を買って、大きな看板にそのような主張を書き、広めました。

では、知恵や情報はどうでしょう。

2002年のマラウイ。干ばつで授業料を払えず、学校に通えなくなった14歳のウィリアム・カムクワンバという少年は、地元の図書館に通いました。そこでエネルギーの本をよみ、ゴミ捨て場で集めたものを使って、5メートルの風車を組み立てました。彼はみごと発電に成功し、5年後にTEDの講演のためタンザニアへいったときに、生まれて初めてパソコンに触れました。

「インターネットを見るのも初めてだった。グーグルで風車のことを検索したら、次々のいろいろな情報が見つかるので、びっくりした」

図書館も素敵ですが、インターネットがより多くの人の元につながり、電気や水や住居といった文化的な生活のための技術を手にできれば、より広くより多くの人へ、豊かさの再分配ができるはずです。


環境再生のための『二枚の羽』

環境は経済成長の初期は悪化するが、その後、改善に向かう」という、さきほどのクズネッツ曲線の環境版(環境クズネッツ曲線)が、1990年代に提唱されました。

高所得国では産業の中心が製造業からサービス業に移る、という傾向はありますが、それは他国へ汚染物質を押し付けているだけです。どこかの国では汚染は発生しており、やがて汚染を引き受ける国はどこにも見つからなくなってしまいます。

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多くの企業に利益をもたらし、国々を経済的に豊かにしてきたのは、『取る⇒作る⇒使う⇒失う』という一直線の産業モデルでした。

しかし、それは生命の世界と対立するものであり、ゴミを自然という外に押し付け続けるものなので、いつまでも続けることはできません。

企業のすべきことは、どれでしょうか?

❏ 惜しみなく与える   
❏ 害を及ぼさない    
❏ 応分の責任を果たす  
❏ 見返りのあることをする
❏ 何もしない      

多くの企業は自社にメリットのあることに終止し、よくても自社の責任範囲での努力にとどまり、将来の目標も「ゼロ・エミッション」が関の山です。

目指すべきなのは、これまで自然に負担を強いてきたことを反省し「惜しみなく与える」ことで、自然の生命力に貢献すること。使い捨て経済ではなく、『再生と回復の循環型経済』こそあるべき姿です。

建設機器メーカーであるキャタピラーは、一度使用された部品を回収し、再製造することで、水とエネルギーの消費量を90%削減し、粗利益を50%高めています。企業の利益になることから始めるのもいいかもしれません。(本書ではその限界も指摘し、国やオープンソースへの期待が記されています)


成長しなくたって幸せになれる

人類の旅の出発点は「伝統的社会」でした。

農業や手工業が生産性の上限を決めていた時代。やがて、機械化された産業や商業化された農業が広まり、近代的な生活へと「離陸」し、ついにはだれもが自動車や住宅を手にする「高度大衆消費時代」に行き着く。

それが1960年代の、成長のストーリーでした。しかし、地球という資源が有限である以上、無限の成長というのは幻想です

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もちろん国によっては、伝統的社会から離陸準備に入った低所得国もあれば、すでに成熟している高所得国もあり、事情が異なります。

しかしわれわれが直面している課題は、同じです。

わたしたちの経済は、わたしたちが繁栄するかどうかに関係なく、成長を必要としている。わたしたちは経済が成長するかどうかに関係なく、自分たちが繁栄できる経済を必要としている。(p.305)

まえよりもっとお金がほしい、失業したくない、他の国に負けたくない、そして『生きがいがほしい』。。。


「人生においてなにが大切か」の答えは1つではありませんが、英国の新経済学財団は、幸せを増やす5つの行動をあげています。

1.周囲の人とつながる  
2.体をよく動かす    
3.世界に関心をもつ   
4.新しい技能をみにつける
5.他者に与える     

日本には「昨日よりも、いい明日」という経済成長の時代はもう来ないのかもしれません。しかし、手の届く範囲の人たちを大切にし、散歩をして自然に触れ、いろんな本を読み、noteを書いて、そして困っているだれかのために手を差し伸べることはできます。

どうせなら、じぶんたちも他の人たちも無理なく、笑顔でたのしく、そして子どもたちの未来も同じように明るいものにできるように。

いまと未来の人々が、みんながドーナツの輪の中に、入れますように。


ここまで読んでくださり有難うございました!よかったらコメントいただけると嬉しいです。