東京都同情塔とニデック京都タワーの間
第170回芥川賞受賞作品『東京都同情塔』の読書会が、京都出町座CAVA Booksで開催されるという発信をみて、すぐさま申し込み。
主催者のひとり三宅香帆さんは小説や古典を紹介する本をいくつも出していて、軽快な文章で本のたのしさを教えてくれる推しの著者。(紹介しきれないのでAmazonで「三宅香帆」を検索してください→検索結果はこちら)
シンパシーってなんだっけ
はじめて読む芥川賞受賞作品。元受刑者と学生の対話の本『根っからの悪人っているの?』をさいきん読んだこともあり、帯にある
に惹かれ、その答えを知りたくて読み進めました。
冒頭、新しく建てられる刑務所「シンパシータワートーキョー」のデザインコンペに参加している建築家 牧名沙羅(まきなさら)は、そのネーミングについて頭の中であれこれ考え始める。
頭の中でこうやって自己検閲をして、「だれも傷つかない」「誤解のない」言葉に書き換える作業をする習慣。SNSなどで書いては消してを繰り返すことは、だれしも経験のあることだろう。だからこのあたりは共感。Xは文字数限定されるからよく修正するし、(良かれ悪かれ)話し言葉にも影響し始めている感覚がある。
このあと牧名はAI-built(ビルト)に質問をし、AIの回答の(男のような)上から目線っぽさ(マンスプレイニングというらしい)に怒りを感じる。彼女は一貫して同情より批判、ある種の許せなさに溢れている。
自分の中で葛藤を抱えながら「だから私は彼を建てなければならない」となんとか結論づけようとする牧名。「そんなに嫌ならやめればいいのに」と突き放す気持ちが半分、「いろいろ疑問はあっても、やらなきゃいけない仕事ってあるよね。。」と彼女を同情する気持ちが半分。。
芥川賞の美しさと、嘘
ひとまわり以上年下の拓人(たくと)とふたり。牧名はシンパシータワートーキョーの建築予定地である新宿御苑に深夜、忍び込む。そこで拓人は牧名に問う。「牧名さんは、ホモ・ミゼラビリスのことをどう思ってるの?」
ホモ・ミゼラビリスとは、同情されるべき人々。生まれながら貧困な家庭環境で育ち、犯罪をせざるを得なかった人たち。
「意見する立場にない」と答えることを拒否する牧名。その後、拓人は彼女のAIのような語り口を耳にし、幻想をみる。
はじめて読む芥川賞、という期待があるからか、とても幻想的で美しいシーンのように感じつつ、「いったい何をみせられているのだろうか」という戸惑いも大きい。このあたりから、(この物語内での)現実とフィクションの境目が曖昧になっていく。
拓人がマックスクラインというジャーナリストから突きつけられた言葉は、この作品全体を揺るがすものにすらみえてくる。
ホモ・ミゼラビリスという言葉をつくり、タワー建設直後、自宅の庭に侵入している見知らぬ人に「君は木を見ていない」とトンチンカンな言葉を発したマサキ・セト。その奇っ怪なシーンで唐突にこの本で太字で書かれているところはすべて嘘なんじゃないか?という直感が舞い降りてきた。
「君たちの使う言葉・・」や木のシーン以外にも東京都同情塔には太字でかかれている箇所がいくつもある。
AI-bulitへの質問と回答(p.17,p.62, p.89,p.120)
マサキ・セトの書籍(p.37)
拓人に対する印象と想像(p.55,p.110,p.111)
新宿御苑で牧名が語りだした東京都同情塔の説明(p.84)
引用文「あらゆる不幸は他者との比較から始まる」(p.110)
マサキ・セトのスピーチ(p.114)
だれかの手が加わった文章は、良からぬことは削除されている。本当に伝えたかった生の言葉はそこにはない。ということなのかもしれない。
ニデック京都タワーに対する〇〇
4月1日から京都タワーが「ニデック京都タワー」になることを、みなさんご存知だろうか。
京都駅を降りると目の前にそびえ立つ京都タワー。ろうそくのようなかわいらしいかたちをしているが、台座のタワービルをあわせると高さは131メートルあり京都No.1のタワーだ。
ニデックは自社HPでこのような発信をしている。
この文章に書かれていないことはいくつもあるのだろう。
シンパシータワートーキョーが東京都同情塔になったように、ニデック京都タワーにも通称がつくこともあるだろう。
たわわちゃんだけは、たわわちゃんのままでいてほしい。