手仕事とメンテナンス
カチリ、コチリ。今日も小さな家の中では歯車の音がする。規則正しく響く優しい音は、まるで子守歌のようだ。
いつも通りの変わらない毎日。目を閉じて、背もたれに体を預けて響く音を聞いていると、世界はこの空間しか存在しないような気がした。
ガチ、耳が小さな違和感を拾った。
不協和音、とまではいかない。けれど見過ごすことはできない、歪な音。耳に手を当て、違和感の正体を探り、少女は目を開けると車椅子を操作し、歪な音の元にたどり着いた。
「ごめんね」
声をかけながら少女よりも少し大人びた様子の人影の背に手を回し、緩んでいたネジを止め直す。歪な音が消える。
少女は頷いた。変わらない穏やかさが戻ったことに満足したように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?