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読書記録32冊目:蟲愛づる姫君 春夏秋冬の花束/宮野美嘉著(小学館文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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愛の形いろいろ…です

帯より

「蟲愛づる姫君の婚姻」シリーズ第十二巻。
 第一巻はこちら(次巻よりは順にリンクがあります)

 婚姻、寵愛、蜜月、純血、永遠、宝匣の第六巻までが第一章。
 第二章から「蟲愛づる姫君の〇〇」ではなく、「蟲愛づる姫君 副題」となっており、副題が長いので少し割愛して、「魔女」「恋」「夜」「暁」「終焉」に続いての今作。
 本編としては前巻で完結しているのですが、冊子のカバー裏、あらすじにあるとおり「珠玉の外伝集」とうたわれたこの一冊。

 春夏秋冬の折々に、蟲愛づる姫君こと魁国の王妃、玲琳姫の侍女を務める葉歌から、玲琳姫の姉であり大帝国の女帝、李彩蘭への定期報告書簡の形をとって語られる物語の数々。
 時間は前後するので、後日譚であったり過去のお話だったりするのですが、それほど混乱はなく読み進められます。

 まずは、春のお話。上旬と下旬に分かれた形での『恋文』と称されたこのお話がふたつである意味は、やはり主役があの二人であるからでしょう。
 二人、と表現するのに相応しい登場人物はやはり、魁国の王と王妃の間に生まれた双子の火琳姫と炎玲王子ですね!
 それぞれの恋心を語るお話なのですが、火琳姫は女の子のいじましさと愛らしさ、愛くるしさ、そしてなにより情熱がほとばしっています。誰をもひざまずかせる美貌の彼女の恋心が向けられた相手は、どう応えるのか。
 炎玲王子は前作から許嫁が決まっているので、どちらかというといちゃいちゃしている(相手であるところの蛍花はまだ受け入れきっていない様子ですが)のが基本のような。それに伴い、複雑な家庭事情のもとで生まれた蛍花のこんがらがった関係を少しほぐすような、そんなお話です。まわりの大人がほのぼのと、でも少しばかりきなくさく動いているほうがちょっと気になりますが。
 そしてどちらも、蟲(毒)は登場します。個人的には前半、玲琳姫の登場がないので、ちょっとだけ物足りなかったり。

 次に、寸書という名の臣下の物語をふたつ挟んで続きます。
 寸書の一は火琳姫のお付きの雷真と女官の秋茗のお話。痴話喧嘩からのろけ話へとつながる人騒がせなもの(痴話喧嘩がそもそものろけで人騒がせなのですが、飛び火もあるのでそれはそれでおもしろい)。
 寸書の二は双子の護衛を務める青徳の回想、そして決意のような。前巻までのお話から、複雑な心境で胸が痛くなること請け合い。

 夏のお話は『見舞状』。こちらは魁国の楊鍠牙王の子育て奮闘記。
 5歳になった双子の姿しか本編での描写がなかった気がするので、貴重なワンシーンでもあるかもしれませんね。
 すこしだけ笑いを誘うのは、赤子に嫌われまくっても全然こたえていない母の玲琳姫。嫌われていても気にしない、と言い切るその姿は相変わらず立派です。
 子煩悩な父となってしまった鍠牙王ですが、本質はそう変わる者ではないよね、というエピソード。

 寸書は挟まず秋のお話へ。『怪文書』と表現されるこのお話は、鍠牙王の母、夕蓮に関わるお話。
 突如現れたのは、鍠牙王の父であり前王の鍠龍の側室たち。春、夏、冬の名を冠する姫君たちは、城に乗り込んできて現在王座に君臨する鍠牙王をはじめとした城の人間たちに喧嘩を売りまくり。
 その目的はといえば。
 突然の珍客たちに振り回されつつも、やはり夕蓮に関わるお話は胸の奥が冷えるような感覚がするもので。
 寸書の三を含んで、最後の最後まで、彼女は彼女のままで、それに関して彼女が思っていることを知る物語でもあります。

 寸書の四は、冬のお話につながるもの。それでありなながら玲琳姫の両親に関わるもの。
 外伝で読んだ感触では、斎帝国の王と側室の関係が玲琳姫の考えている親の姿、と少し違う印象だったので、そのあたりが紐解かれるものでした。
 常々玲琳姫が口にしていた「金払いのいい男を捕まえる」という言葉を実際にかけられるシーンが見られます。

 冬のお話は『密書』。玲琳姫の婚姻に関して。
 同時にはじまりにつながるお話です。
 しかも、このお話の構成ですごいのは、二つの意味で「はじまり」につながっていること。お話の構成上みかける技法ではあると思うのですが、ふたつの形でつながる構成の、発見したわくわく感も得られる達成感はなかなか嬉しいものでした。
 数人の殿方と「お見合い」をする玲琳姫ですが、蟲師に対する反応が笑いを誘います。

 最後は『追伸』。
 これにて大団円、の一言にするべきなのか、相変わらずの日常は、この王国の、この王の時代では永遠に変わらないのだろうなという確信を得たというべきか。
 よろしければ、直接、しかりと、ご確認いただきたいところ。
 それでも言えるのは、これでこのシリーズは終幕、ということですね。

 公式紹介ページはこちら

コミック版(全3巻)もあります(原作第一巻のお話)

お読みいただきありがとうございました!

 感想を書き終えたあとに改めて帯を見直したら、隅に
 ”世にも奇妙な夫婦(とその周辺)の物語、大団円!”
 と記載しているのを見つけました……
 世にも奇妙な夫婦……そうか、そうだったんだ……


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