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狭霧 織花
2023年4月16日 09:47
忠告は、重いものだった。『囚われるでないぞ』 ――もう、遅い。 指がかけられた扉は、ぎしりと音を立てた。横にずれ、内部を無防備にさらしだす。 久しく人の気配がないまま放っておかれた建物特有の空気が鼻をつき、外へと流れ出ていく。 入れ違いのように、生ぬるく湿った外気が袂を揺らして部屋の中に流れ込んでいった。 まるで誘われているようだ。誰もいないはずの空き家のはず。けれど、誰かにそ
2023年4月6日 21:34
”言葉を必要としない愛も、存在するの。” 証拠とするかのように差し出されたのは、赤色の小さな果実をつけたような、花。 その言葉の意味に、気づいて嬉しくなったのは当然。 御伽話のようなことはあるのだと、ずっとずっと信じていた。 それこそお姫様や不可思議な冒険譚。 ずっとずっと、信じていた。「まぁ! わたくし嬉しいわっ!」 また、あなたに会えて。 彼は、父の教え子の一人。文明