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狭霧 織花
2021年1月26日 17:12
本当の恋は、どこにあるのだろう。 お縫は思う。最近は特に。「姐さんは、どうして恋をしたの?」 昔語りをしてくれた千瀬姐さんは、お縫の問いに淡く笑うのみで。「それがわからないから、『恋』というのよ」 そのあでやかな笑みに、お縫はただ見とれるばかり。 それでも、まっとうな恋なんて、自分には出来ないなと思う。 お縫の仕事は―――一晩だけの、夢を見ることを手伝うこと―――なのだから。「な
2021年1月28日 22:14
それは、はるか昔のことでした。 名も無き村がありました。村の人々は貧しいながらも自由で陽気で、そして暖かな暮らしをしていました。 しかしある日。村の近くで、隣国同士の大きな戦争が起こりました。戦争に勝つためにと、村の男達も兵役を課せられ、戦地へと送られました。 ある男は愛する家族や恋人に必ず帰ると約束し、また若い恋人同士は帰還後に結婚の約束までもしていました。 誰もが全員の無事の帰りを願
2021年1月26日 22:41
ひらり。 目の前を横切った、その優雅な姿に。 あたしは手を伸ばした。 魅入られた愚者のごとく。迷いもなく、ただ指先が対の羽を持つ生き物を追う。 そして――「危ない!!」 悲鳴のような、怒ったような叫びを最後にあたしの視界も、思考も、ぷつりと闇に閉ざされた。 ただただ黒く、塗りつぶされた夜のように。「おやまぁ、とんでもないのが来たもんだ」 ……? 誰だっけ、このひと。見