まるで人間のような自然なやりとりを実現する「Siena AI」は、ブランドのカスタマーサポートをどう変えていくか?
Chat GPTをはじめ、人間と遜色ないレベルの文章をあっというまにアウトプットできるAIが現れたことで、これまでの雑務的な文章作成のあり方が変化しようとしている。
そんななか、リテール分野で注目されているのが、まるで人間の担当者が応対しているかのような自然なやりとりを実現する「Siena(シエナ)」だ。
AIのトレーニングにより、人間と遜色ない返信が可能に
Sienaの一番のポイントは、AIとは思えない自然なやりとりが行える点にある。上記の旧来のチャットbotとSienaのチャットbotの比較を見ると、その差は歴然だ。
これまでは左のチャットbotのように、問い合わせ内容が少し複雑になるだけで対応できなくなり、あらかじめ設定しておいた選択肢の中から問い合わせ内容を選んでもらい、最終的に該当のヘルプページを案内するか、人間の担当者へとつなぐことになってしまっていた。
しかしSienaのAIでは、顧客の問い合わせから文脈を理解し、人間と同じようにテキストで返信までできるようになった。
しかもより人間らしさを出すために、挨拶やクッション言葉まで駆使している。パッと見ただけででは、人間と見分けがつかないほど高度なやりとりができるレベルに到達しているのである。
さらに、AIのトレーニングによってよりブランドらしい文面へと成長させていくこともできる。「Instruction」と呼ばれる設定画面から返信する際の指示を設定すると、AIのテキスト生成にそれらの指示が反映される。
文面の設定だけでなく、返信後のチケットステータスを自動で変更するかどうか、チケットにタグ付けをするかどうかなど、人間の担当者が対応しやすいように、返信後の挙動もひとつひとつ細かく設定を変更することができる。
また、メールからSNSのDMまで多岐にわたるチャネルで顧客とコミュニケーションをとらなければならない現代に合わせて、チャネルごとに文章のトーンの微調整をすることもできる。
ブランドらしさに加え、チャネルや状況にあわせて文体を変えるための学習を繰り返すことで、Sienaは人間と遜色ないクオリティを実現している。
しかもSienaは英語以外にも100以上の言語にも対応しており、日本語でのやりとりも人間が書いた文章と遜色ないクオリティとなっている。
2022年に創業したばかりのSienaだが、すでに470万ドルの資金調達を2回行っており(2024年2月時点)、成長中のブランドがこぞって導入するなど、注目を集めている。
「人間らしさ」をつくるSienaの3つの柱
Sienaは、下記の3つを開発の柱にしているという。
高い文脈理解と文章作成能力
Shopifyと連携し、キャンセルや修正といったタスクも自動完結できる
複雑なマルチタスクにも対応
高い文脈理解と文章作成能力
Sienaではカジュアルかフォーマルかの二軸だけでなく、フレンドリーさやかわいさ、ウィットに富んだ言い回しなど、さまざまなバリエーションが用意されている上、InstagramのDMとメールで文体を変えるなど、人間と同じような「ペルソナの使い分け」ができるようになっている。
ブランドらしさをベースにしつつ、DMではややフレンドリーに、メールでは少しフォーマルさを出す、など人間の担当者が無意識にやっているような使い分けを、AIも行えるようになっているのだ。
日本語版でもその精度は非常に高く、同じ問い合わせに対しても、トーンを変更するだけで下記のように文体が大きく変更される。
同じブランドでもチャネルごとにテンションやトーンを微調整することで、より「人間らしい」やりとりができるようになっている。
文体のみならず、FAQを読み込ませることで、ブランドの情報を素早く学習させることも可能だ。
さらに、SienaではCopilotという作成したい文章の条件を入力するとAIが自動で文章を作り出すサービスも提供している。
たとえば、「不具合が生じて迷惑をかけてしまった顧客向けに、30%オフのクーポンを、特別感がでるように提案してほしい」と入力すると、下記のような文章が提案される。
以前はこうした長文の生成には数分を要していたが、Copilotは30秒程度で文章を生成することができるという。
こうして生成された文章を下書きとして保存し、人間の目を入れてから送るのか、自動的に返信まで完結するのかを、Sienaのお問い合わせ内容への理解度(confidence rate)に合わせて変えることもできる。
<confidence rateのキャプチャ>
よくあるシンプルな問い合わせにはSienaに自動で返信してもらい、内容が複雑であったり、レアケースの問い合わせに対しては返信の下書きを提案するのみにとどめることで、問い合わせにおける事故を防ぐことができる。
Shopifyと連携し、キャンセルや修正といったタスクも自動完結できる
Sienaでは、ShopifyやGorgias(ヘルプデスク)と連携して、注文のキャンセルや返品交換、送り先住所の変更、注文した商品のトラッキングといったタスクを処理することもできる。
これまでは、botが返信をしてもキャンセルや情報の修正といったタスクは人間の手で行う必要があった。しかし、そうしたタスク処理までSiena側が自動で行えるようになったことで、カスタマーサービスの担当者の業務の大幅な削減が期待できるようになった。実際に、ウォーターボトルブランドのSimple Modernでは、Sienaの導入によって問い合わせの79%が自動化されたという。
Sienaが連携できるサービスも多岐にわたる。
Shopifyのみならず、ZendeskやSlackとも連携することができ、それらのコミュニケーションにもSienaのAIが対応してくれるのがポイントだ。
高度なAIは、CSの仕事をどう変化させていくか?
こうした高度なAIの登場によって、今後はカスタマーサービス担当者の業務も大きく変化していくと考えられる。これまでは自分ですべての文面を考え、打ち込まなければならなかったが、今後はSienaのようなAIをトレーニングし、AIでは解決できない難しい問い合わせへの対応が主な仕事となっていくだろう。
AIによってCSの仕事がなくなるわけではなく、AIの精度を上げ、より顧客満足度が高くブランドらしいコミュニケーションが自動でできるように育てていくことへと、CSの仕事が変化していくと言えそうだ。
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