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創業2年で売上2,500万ドルに。「Jolie」の成長をドライブさせたサブスクミックスの販売戦略

D2Cブームで生まれたブランドがExitし、その創業者が過去の反省を踏まえた次世代ブランドを立ち上げ、成功する事例が増えてきている。

その代表格が、2021年にローンチしたシャワーヘッドブランドのJolie(ジョリー)だ。ローンチ初年度には400万ドル、二年目には2500万ドルを超える売上を達成し、二期連続で黒字化しつつ急成長を遂げている。

JolieのCEOであるRyan Babenzienは、デジタルネイティブブランドとして売上1300万ドルまで成長したスニーカーブランドGreatsの創業者だ。彼はGreatsを売却した後、スニーカーという商材やD2Cというビジネスモデルの課題を踏まえ、下記の3つの観点から次のプロダクトのジャンルを検討していた。

  1. サイズに関係なく販売できるもの

  2. 顧客の日々のルーティーンとして組み込まれるもの

  3. 人の自慢したい気持ちや虚栄心(=vanity)に訴えかけるもの

そして行き着いたのが、「シャワーヘッド」だった。


シャワーの水質は美容の「ステップゼロ」

アメリカでは、水道水に塩素や鉛、ヒ素、水銀などの重金属が含まれていることがある。シャワーを通してこれらの成分を浴びることで、髪や肌に悪影響が出ているのではないか、という仮説からJolieの製品開発はスタートしている。

3つの独立機関によるテストでは、Jolieのフィルターはアメリカの主な汚染物質の85%を濾過しているという。

ヘアケアやスキンケアは常にトレンドが移り変わり、競争が激しい分野である。シャンプーは毎月変えても、シャワーを浴びる習慣は変わらない。すべての美容の基礎となるシャワーの「水質」は、トレンドに左右されない提供価値となりうる、という仮説からJolieは生まれた。

Jolieではシャワーの水質を美容の「ステップゼロ」と呼び、綺麗な水で髪や肌を洗うことの重要性を啓蒙している。

共同創業者のArjan Singhは、Smartrrの記事の中でJolieにおけるシャワーヘッドの位置付けについて下記のように話している。

私たちは配管会社でもなければ、修理会社でもないし、ましてやシャワーヘッドの会社でもありません。私たちはビューティー&ウェルネスを作っている企業であり、シャワーは美容の「ステップゼロ」なのです。
"We’re not a plumbing company, not a fixture company, not even a showerhead company, we are building a beauty and wellness company - and showering is Step 0 in beauty." - Arjan Singh

フィルターのサブスクの解約率は3%以下

Jolieでは、シャワーヘッドに内蔵している独自のフィルターを三ヶ月ごとに交換することを推奨している。シャワーヘッドの初回購入の際も、サブスクなしの場合は165ドルだが、サブスクに入れば148ドルとお得に購入することができる。ブランドコンサルタントのNick Sharmaによれば、Jolieの顧客の80%がサブスクの契約者だという

フィルターのサブスクリプション価格は3ヶ月ごとに33ドルで、Smartrrによると全体の15%をサブスクの売上が占めている。さらに解約率は3%を切っており、これはNetflixをはじめとする配信サービスと同水準の低さだ。

モノのサブスクは、下記のグラフにおけるBlue ApronHello Fresh(どちらもミールキットのサブスク)のように、契約期間の経過とともに顧客の継続維持が課題となりやすい。

(出典:「A Solution to Blue Apron’s Retention Problem」 by SaaSquatch)

同グラフではカミソリのサブスクサービスであるDollar Shave ClubがNetflixと同水準の継続率となっている。JolieのフィルターもDollar Shave Clubと同様、定期的に買い替えが必要な日用品である点が継続しやすさにつながっていると考えられる。また、毎月ではなく三ヶ月に一回という頻度も解約率の低さに寄与していると思われる。

シャワーヘッド単体の販売のみならず、フィルターのサブスクリプションという強固な収益基盤を確立したことで、Jolieは初年度から420万ドルを売り上げ、黒字化したまま現在に至る。さらに2023年には売上額は2500万ドルへと急成長を遂げるなど、サブスクミックスの成功事例として語られる存在となった。

「D2C」にこだわらず、マルチチャネル、オムニチャネルを意識

Jolieは、CEOであるRyan Babenzienのスニーカーブランド時代の反省を生かし、ローンチの時点で実店舗への卸や、Amazonでの取り扱いを積極的に行なってきた。

特に彼らが苦心したのが、これまでシャワーヘッドが取り扱われてきた家電量販店ではなく、顧客の「ウェルネス」への関心にアプローチできる場所への出店だ。

そのひとつがLAで人気の高級スーパー「Erewhon(エレウォン)」であり、健康や美容への感度が高く、新しいもの、話題のものへのフットワークが軽い顧客をローンチ初期から取り込むことに成功した。

Jolieの製品は高級スーパーのエレウォンでも展開されている("How Jolie is CRUSHING Influencer Marketing"より)

CEOのBabenzienは、ModernRetailのインタビューでオムニチャネルの重要性を下記のように語っている。

ブランドの立ち上げ当初から、私たちは常にオムニチャネル・ビジネスを目指していました。私個人の見解として、純粋なD2Cブランドで利益を上げている企業はないと思っているからです。ビジネスを成長させるために、D2C以外の流通経路を確保することが重要だということは、誰もがわかっていることだと思います。それが私たちのアプローチでした。
“From the beginning, we were always going to be an omnichannel business. I personally don’t know of any purely digital consumer brands that are profitable. So I think we all know that it’s clear to have other points of distribution other than direct to support the business. And that was our approach.”

また、マーケティングにおいてもオンライン広告のみに頼るのではなく、アドトラックを走らせるなど、リアルな場で「Jolie」の名前を目にする機会を積極的に増やしていった。

「シャワーの水がこのトラックよりも汚いとしたら?」のメッセージと共にシャワーヘッドの必要性をアピールするJolieトラック広告("How Jolie is CRUSHING Influencer Marketing"より)

オンライン、オフラインの両方で、ブランド名やシャワーヘッドを意識する機会が増えることで、意図的にトレンドを作り出していったのだ。

UGCを発生させる戦略的なギフティング

Jolieを語る上で欠かせないのが、TikTokをはじめとしたSNSでの顧客の投稿と、それらの動画を戦略的にHPやSNSで活用する戦略だ。

この数年で投稿数は2万件以上に上り、その投稿数は2022年から2023年の間に5倍も増加している

特に人気が高いのが、Jolieのボックスの開封動画と取り付け動画だ。スターターキットはミントグリーンと白を基調とした爽やかな色味で、同封の取り付け用のレンチとテープもブランドカラーで統一されている。こうしたオリジナルアイテムのキャッチーさも、UGCコンテンツの増加に貢献している。

フィルターと取り付けキットが入ったJolieのボックス。ミントグリーンのレンチとテープを使った取り付け動画を撮るのがユーザーの間で人気が出た (Jolie 商品ページより)

JolieのUGCコンテンツが増加した背景には、ブランドローンチ時のギフティング戦略がある。ブランドローンチにあわせて、彼らはマイクロインフルエンサーも含め、5000人もの人々にギフティングを行った。選定基準はフォロワー数ではなくあくまでオーディエンスとのエンゲージメントを重視し、正直なレビューを推奨した。

その結果、Jolieに関する口コミが瞬く間に広がり、売上も伸びていった。ブランドコンサルタントのNick Sharmaによれば、JolieのCAC(カスタマー・アクイジション・コスト)は、オーガニックな口コミのおかげでギフティングにかかるコスト程度に抑えられているという。

さらに、UGCコンテンツをECや公式のInstagramで活用することで、コンテンツ生成コストを減らし、UGCをさらに増やすことにも成功している。

D2Cブランドの新しいロールモデルとしてのJolie

Jolieのように、初年度から黒字化し、外部からの資金調達は最小限に抑え自己資金での成長えを目指すブランドがアメリカでは増えている。以前CEREAL TALKで紹介したウェアブランド「True Classic(トゥルー・クラシック)」もそのひとつだ。

また、ECを通して消費者に直接販売していたD2Cモデルではなく、ローンチの時点で店舗へ卸したり、Amazonを活用するブランドも増えている。

ビジネスモデルや出店戦略、UGCの活用まで、Jolieの動きは今のデジタルネイティブブランドのひとつのロールモデルとなっていきそうだ。

(カバー写真:Jolieトップページより)


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