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LA発の高級スーパー「Erewhon(エレウォン)」が流行の発信地になるまで

今、アメリカで一番ホットなお店のひとつとして注目を集めているのがオーガニックやマクロビオティックの食品を扱う高級スーパー「Erewhon(エレウォン)」だ。

特に話題を集めているのがセレブとコラボした期間限定スムージーで、ヘイリー・ビーバーとのコラボスムージーは年間で1億ドルもの売り上げを叩き出した。

▲ヘイリーとのコラボスムージーはあまりの人気ぶりからのちに定番化されることに

エレウォンのセレブとのコラボスムージーは一杯22ドルで、そのうち1ドルがセレブへ、2ドルが寄付に回される仕組みとなっている。今ではエレウォンでコラボスムージーを出すのがセレブリティとしての価値にもなっており、そのスムージーを求めて毎朝多くのファンが列をつくっている。

スムージー以外にも、エレウォンで扱う食材はココナッツヨーグルトが19ドル、定番の惣菜として人気の「バッファローウイング風カリフラワー」が1ポンドあたり19ドルとかなりの高価格帯だ。にも関わらず、西海岸在住のセレブを筆頭に人気に火がつき、現在ではオリジナルトートバッグやキャンドルなどのホームケアグッズも扱うなどライフスタイルブランドとして確立した。

「Erewhon」のロゴが入ったトートバッグやウォーターボトルも人気(Erewhon Official Pageより)

「マクロビ」の思想からはじまったエレウォンの歩み

実は、エレウォンの歴史は古く1966年まで遡る。オーガニックスーパーとして有名なWhole Foodsのオープンが1980年なので、なんとその10年以上も前から健康志向を掲げて食品を販売してきた歴史ある食料品店でもあるのだ。

エレウォンの創始者である久司道夫・アヴェリン夫妻は、「マクロビオティック」の創始者であるジョージ・オーサワ(桜沢如一)に師事し、アメリカでマクロビの考えに沿った食品を手に入れるのが難しいことから、1966年にマクロビとオーガニックフードを扱うお店としてエレウォンをオープン。1968年にはLAの店舗をオープンした。

その後1981年に一度倒産するものの、分社化していたLAの店舗は倒産前に従業員がオーナーシップを取得し、地場の食料品店として細々とその歴史をつないでいた。

次に転機が訪れたのは2011年。すでに食料品流通の世界で財を成していたJosephine AntociとTony Antociの二人がErewhonのLA店舗を買収し、高級路線のブランドイメージをかたちづくっていった。

現在はLAに10店舗を構え、一店舗あたりの週次売り上げは90万ドルにものぼる。

オーガニックフードの市場は500億ドル規模とも言われているが、エレウォンはその巨大市場の形成を牽引してきたブランドとも言える。

パンデミックと健康志向をきっかけにセレブの御用達店舗に

エレウォンの名前が一気に広まったきっかけは、パンデミック下でのロックダウンだった。

世界的に不要不急の外出が制限され、食料品や生活必需品を手に入れるためのスーパーへの買い出しは人々にとって数少ない楽しみの一つとなっていた。

パンデミック前は世界を飛び回っていたセレブリティたちも例外ではなく、ロックダウン中のせめてもの楽しみとして高級スーパーのエレウォンに通う姿が次々とパパラッチされ、エレウォンの名が一気に広まるきっかけとなった。

さらに、健康志向の高まりもエレウォンにとっては追い風となった。10年前であればクラブで踊り、お酒やコーラを楽しんでいたような若者たちにとって、今やヘルシーな30ドルのランチを食べ、スムージーを飲むほうが「クール」な行動なのだ。

セレブリティが通うお店としての知名度と健康志向の高まりとが合致し、セレブとのコラボスムージーが発売されるようになったことで、エレウォンに併設するカフェは行列の絶えないお店になっていった。

「新しくて、面白いもの」を見つける場所としてのエレウォン

エレウォンが扱う商品は高級なものだけでなく、D2Cブランドをはじめとした新興ブランドもいち早く取り入れている。ヘルシー、オーガニック、サスティナビリティといったエレウォン独自の基準を満たしつつ、ポップでキャッチーな新製品をピックアップすることで、いつ行っても新しい発見がある、楽しい店舗体験の提供を重視している。

そのためにエレウォンでは毎月300以上の新製品をレビューし、常に棚に並ぶ製品のラインナップを新鮮に保つように努めているという。取り扱いが開始されたブランドは製品が店頭に並ぶだけでなく、エレウォンのニュースレターやソーシャルメディアでも紹介される。エレウォンのファンにはセレブリティやインフルエンサーも多いため、彼らがSNSで紹介してくれる可能性も高まる。こうして、今やエレウォンの棚はCPG系ブランドが一番入りたい場所となっている。

特に注目を集めるシーズナルの棚は、最近ではブランドがジャックするプランも提供されているという。

以前ニュースレターで紹介したOlipopも、棚をまるごと使ったプロモーションを行っている。新しくて面白いものを見つけたいというモチベーションを持ち、影響力のある顧客層も多いエレウォンは、新興ブランドがこぞって出店したい場所の地位を確立しつある。

エレウォンのコミュニティ戦略

エレウォンの商品棚は天井近くまで商品が陳列されており、時にはスタッフに頼んで取ってもらわなければならない。しかしそれすらもコミュニケーションを作るためのきっかけとしてデザインされたものなのだという。

また、店内には自然療法医(naturopathic doctor)が常駐しており、食べ物やサプリメントについて相談することもできる。

The CUTでは、こうしたエレウォンの取り組みについて「スタッフのいる店、それが現代における贅沢なのだ」と書いている(It is this, as much as anything, that feels luxurious in our time — a store in which there is a staff.)。

単に食料品を買う場所としてではなく、コミュニケーションの場としてのお店のあり方が、エレウォンへの熱狂を生み出していると言えるだろう。

エレウォンには年間100ドルと200ドルの二つのメンバーシップがあり、それぞれ毎月一杯スムージーが無料になる特典がついている。毎月スムージーを飲むために足を運ぶ機会をつくり、つながりを強固にしていくという意味でも、これまでのスーパーとは異なるアプローチが見てとれる。

ライフスタイルブランドとしての成長

エレウォンは食料品店の枠を超え、ライフスタイルブランドとしても人気を博している。オリジナルのトートバッグやフーディ、キャンドルといったオリジナル雑貨の販売に加え、近年ではアパレルブランドとも次々とコラボしている。

2023年11月にはバレンシアガとエレウォンのコラボTシャツを725ドルで発売。またエレウォンの一番の人気商品であるスムージーでもコラボしており、竹炭を使った真っ黒なスムージーも話題になった。

これまで数々のセレブとのコラボを成功させてきたエレウォンのスムージーはコラボフォーマットとしても人気が高く、今後はエレウォン×セレブリティ×ブランドのコラボも増えていきそうだ。

また、エレウォンは自社の名を冠したプライベートブランドにも力を入れている。

エレウォンPBのミネラルウォーター

一般的なスーパーではPB商品はNB商品より低価格であることが多いが、エレウォンではむしろPB商品のほうが割高だ。にも関わらず、顧客たちはエレウォンのマークが入った商品をこぞって購入していく。エレウォン自体がブランドであり、購入したオリジナル製品をSNSにあげることがステータスのひとつとなっているからだ。

エレウォンでは今後オリジナル製品を他社スーパーに卸す計画もあるようで、商品を足がかりとして全米への認知度を広げていく狙いもありそうだ。

副社長であるVito Antociは2023年8月のModern Retailのインタビューに「数年以内にNYに進出したい」と発言しており、LA以外のエリアへの拡大にも積極的であることが伺える。


エレウォンは食料品店としては60年以上の長い歴史を持つが、流行の発信地として人気を博すようになったのはこの10年ほどのこと。買収によってオーナーが変わり、厳格なナチュラル・マクロビ思考から、キャッチーなヘルシー思考へと変化し、ラグジュアリーでポップなイメージへと変化させていった。

新興ブランドも健康志向とポップさを両立したものが増えている中、ヘルシー+ラグジュアリーの分野でトップの影響力を持つエレウォンは今やD2Cブランドがもっとも卸したい店舗として人気を博している。

さらに、店舗だけでなくオリジナル製品にも力を入れており、ひとつの「ブランド」としての面でも成長を遂げている。熱狂的なファンをつくり、成長していくロールモデルとしても、エレウォンの今後の動きには注目だ。

(カバー画像:Erewhon Official Instagramより)


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