2023年のShopifyはどう変わる?今おさえておきたい「Checkout Extensibility」とは
今や大小さまざまな規模のEC事業者が利用しているShopify。その動向は国内外のEC事業者にとって常に注目の的だ。
昨年の大きな変化といえば、10月にメルボルンで開催された「Shopify UNITE」で詳細が発表された「Checkout Extensibility(チェックアウト・エクステンシビリティ)」だろう。
これまでShopifyはチェックアウト画面周りだけはcheckout.liquidというファイルを直接操作する形になり、制限も多いためほとんどカスタマイズできない状態だった。そのため国ごとに異なる配送やギフトの設定、日時指定の設定もできないことから、日本ではShopifyに乗り換えることに難色を示す企業も多い。
こうした課題を解決するべく、Shopifyは2022年にチェックアウト周りの仕組みを大幅にアップデートした。その総称が「Checkout Extensibility」だ。
Checkout Extensibilityの発表を受けて、すでに新しいShopifyアプリも開発されはじめている。これからのShopify上の顧客体験を考えるうえで、こうしたShopifyの変化は見逃せない。
今のところ、Checkout Extensibilityの機能が使えるのはShopify Plusユーザーのみだが、近いうちに全ユーザーが使えるように実装されるのではないかと予想されている。
そこで今回は、「Shopify UNITE」にも参加し、Shopify日本初代エバンジェリストでもある、株式会社フラクタ代表の河野貴伸氏監修のもと、Checkout Extensibilityによって追加された機能とこれから考えられる変化について解説する。
「Checkout Extensibility」で追加された5つの機能
今回のアップデートで追加された具体的な機能は下記の5つ。決済周りのカスタマイズ性向上を目指したものが中心だ。
Branding API
Shopify Functions
Post-purchase extensions
Web Pixels
Checkout UI Extensions
これらの5つの機能を「何をやりたいのか」をベースにまとめたのが下記の図だ。Shopifyのデフォルト機能だけでも、さまざまなカスタマイズができるようになったことがわかる。
ここからは、それぞれの機能について解説していく。
Branding API
今回の機能追加でもっともわかりやすいのが「Branding API」だろう。チェックアウト画面のボタンをブランドカラーに変更したり、静的なブランドロゴだけではなく、点滅など動きのあるロゴも設定できるようになった。
Shopifyで構築されたECで買い物をした際、突然Shop payのページに飛ぶことで不安を覚える消費者も少なくない。チェックアウト画面をブランドの雰囲気に寄せることでそうした不安を払拭し、スムーズに決済してもらう効果が期待できる。
Shopify Functions
Functionsでは、主に購入時のディスカウントや特典にまつわる機能が追加されている。たとえばボリュームディスカウントや購入特典、ひとつ購入でもうひとつプレゼントなど、追加購入を促す施策が打ちやすくなる。
また、「一万円ごとに500円オフ」などの段階的な割引も適用できるようになる。こうした商品や配送の割引にまつわる機能を、アプリの作成や追加によってカスタマイズできるようにするのがShopify Functionsだ。
Shopifyはアプリの導入によるカスタマイズ性の高さに強みのあるプラットフォームだ。しかしこれまで、決済まわりだけはアプリが導入できない仕組みをとってきた。それがShopify Functionsによってカスタマイズ性が大きく引き上げられることになる。
今後、国や商材にあわせたディスカウントができるShopifyアプリが生まれるのはもちろん、規模の大きい企業は自社にあわせたアプリを開発し、顧客体験の向上を目指すことになるだろう。
Post-purchase extensions
Post-purchase extensionsでは、顧客の商品購入後に自動的に関連商品を紹介し、顧客がその商品を購入した場合、直前の商品購入と同じ情報(送付先や決済情報など)で購入ができる機能だ。
たとえばよく買い忘れや追加購入が発生する商品をレコメンドすることで、顧客は再度情報の入力をすることなく、手軽に追加購入ができる。
Shopifyの決済機能であるShop Payでは、注文が完了してから実際に決済が通るまでに1分程度のラグがある。そのため、注文後すぐであれば同じ注文として処理をすることができる。
注文完了画面には、商品レコメンドだけではなくアンケートや次回使える割引コードを記載することもできる。注文完了後も、顧客体験のひとつとしてカスタマイズできる分野になりつつある。
Web Pixels
Web Pixelsの仕組み
Web Pixelsは、オンラインストアで実行され、マーケティングキャンペーンの最適化と分析のために顧客イベントと呼ばれる行動データを収集する JavaScript コードスニペットのことを指す。つまり、Web Pixelsを使うことでマーケティングキャンペーンの最適化と分析のために安全に顧客の行動データが収集できる。
Web Pixelsアプリ拡張機能は、Shopifyユーザーとアプリ開発者にとって下記のメリットがある。
・EC事業者が追跡コードを追加する必要性を排除または最小限に抑える
・店頭、チェックアウト、購入後のページなど、すべての表面に安全にアクセスできるようにする
・アプリ開発者側がアクセスできるデータを制御する
・パフォーマンスとプライバシーに関する警告を回避する
・余分な DOM 操作コードを削除して、より小さなピクセル コード ライブラリを提供する
現時点ではこの仕組みに外部サービスのタグマネージャー、例えばGTM(Googleタグマネージャー)の埋め込みなどは動作保証されていない。そのため個別に検証を行う必要があるが、いずれにしても今までと比較すると分析は容易になると言えるだろう。
checkout.liquidの廃止の可能性
Checkout Extensibilityを有効にするためには、checkout.liquid を操作できる状態を解除しなければならない。さらにShopifyからは明示されていないものの、近い将来にcheckout.liquid のカスタマイズが廃止され、Web Pixelsのみで対応しなければならない可能性が予見されている。
そこで「checkout.liquidのカスタマイズがいつ廃止されるか」という問題が今、注目を集めている。
これまで自社の特性にあわせた細かいカスタマイズは、checkout.liquidを使い直接コードを編集することで行ってきた事業者も多い。
しかし決済周りのコードを事業者側が直接変更するのはリスクを伴うため、安全に編集ができるよう、新しく生まれたのがCheckout Extensibilityだ。
Checkout Extensibilityを使えば、アプリをつくることで安全にカスタマイズが可能になるため、コードを直接編集するのではなく、それぞれが自社用にアプリを開発して対処するか、パブリックアプリをインストールして対処することになる。(2023年1月時点ですでに多数のパブリックアプリが用意されている。)
これまでcheckout liquidを利用してきた事業者は、既存の仕組みが使えなくなることも含め、Checkout Extensibilityに移行する際は特に注意が必要だと言える。
Checkout UI Extensions
Checkout UI Extensionsでは、カート画面やチェックアウト画面にコンテンツブロックを挿入できるようになる。さらにカートからShop Payページに移行した際にもそのままコンテンツを出せるようになっており、ブランドらしさを出すことができる。
さらに、日本の事業者にとっては日付指定やラッピング指定といった機能も追加できるようになるのが嬉しいポイントだ。日本でもCheckout UI Extensionsをベースに、こうした購入前の指定ができるようになるアプリが開発されると予想される。
おまけ:ブログ機能の拡張も?
もうひとつ、Shopify UNITEで紹介されたのが「Shopify Content Platform」だ。まだベータ版の段階ではあるが、ノーコードでコンテンツの作成が可能になる。
また特定のコンテンツをVIP顧客だけに表示させるなど、Shopifyのプラットフォームならではの機能もあるという。チェックアウト画面のみならず、コンテンツ面の進化も注目だ。
冒頭にも書いたとおり、今回紹介した「Checkout Extensibility」はあくまでShopify Plusユーザーのみが使える機能となっている。しかしこれまでにもShopify Plusユーザー限定だった機能を数年後に全ユーザーに開放してきたため、おそらくCheckout Extensibilityも数年のうちにすべてのユーザーが使えるようになると予想されている。
今年もますます勢いを増していきそうなShopify。その機能とエコシステムから生まれる新たな潮流を、2023年も注視していきたい。
▼Shopifyアプリの紹介記事をまとめたマガジン
協力・監修:河野貴伸氏(株式会社フラクタ代表)
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