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[徒然]比喩表現は、「跳躍力」が命だ。IPPONグランプリも同様に。

本を読んでいて、「おもろいな〜」と思うときは、大抵ストーリーに対する感動か、あるいは文章の端々に散りばめられた不可思議な比喩表現に出会ったときである。

「彼は博識だ」
というときに、
「彼は歩く辞書だ」
と表現する。

これは一般的な暗喩の具体例だが、こうした比喩表現を「事象間の飛躍」と捉えることができる。

「博識」という概念から「辞書」という具象への飛躍である。

そしてこの飛躍の幅が大きければ大きいほど、僕はそこに面白みを感じるんだ・・・!

それが顕著に現れているのが、IPPONグランプリではないだろうか。

大喜利というのは、言ってみればある種の比喩表現であって、その跳躍力が大きければ大きいほど、そして跳躍する場所がユニークであるほど面白いのではなかろうか。

例えば、先日放送されたIPPONグランプリでの一幕。

「無理無理無理無理無理無理無理無理!!」どんな状況?

というお題に対して、ホリケンが答えたのがこちら。

雪見だいふく1コくんない?

堀内健

いやもう、これやばくないですか?
おいおい勘弁してくれよホリケン天才かよぉぉお…。

僕はこれをテレビで見ていて、バカ面白いを通り越して、感心してしまったほどだ。だってすごい跳躍力だし、しかも跳躍着地する場所がユニークすぎるのだ。

この事例を整理してみると、「無理!と思う状況」というイメージから「雪見だいふくをひとつ要求される状況」というイメージへと跳躍したことになる。これはかなりの跳躍力だ。幅跳びの世界選手権並みだ。(←こういうのは、あまり良い比喩表現ではない。自分の才能のなさに日々絶望している)


そして僕は村上春樹作品に出てくる比喩表現が特に大好きだ!!大好きなんだ!!!(突然のバカデカボイスで失礼しました)

いや、本当に村上春樹が操る比喩表現は面白い。特に『ノルウェイの森』の下巻で僕(ワタナベ)が緑ちゃんに対して好きであることを伝える際の表現がアッとするほど面白い。例えば以下のようなものがある。

世界中のジャングルの虎が溶けてバターになってしまうくらい好きだ

村上春樹『ノルウェイの森(下)』

山が崩れて海が干上がるくらい可愛い

村上春樹『ノルウェイの森(下)』

こんな愛情表現されてみたいものですな。男の僕でもそう思う。彼氏にボソッとこんなことを言われたらもうスキィィイ!ってなっちゃう気がする。


実際に、精神科医で批評家でもある斎藤環さんはこう村上春樹の隠喩技術に対して評価している。

隠喩能力を、異なった二つのイメージ間のジャンプ力と考えるなら、彼ほど遠くまでジャンプする日本の作家は存在しない

批評家 斎藤環

村上春樹の隠喩表現には毎回毎回驚かされる。きっとIPPONグランプリに村上春樹が出場したら、おそらく芸術点でIPPONを取りまくるだろう。

ちなみに、この記事では村上春樹作品に出てくる面白い比喩表現をまとめてくれている。さっき取り上げた例もここにまとまっている。


こうしてIPPONグランプリと絡ませて比喩表現を考えてみると、文学とは意外と身近にあって、親しみやすいものだと感じてもらえるだろう。

最後にひとつ、この記事から村上春樹のクスッと笑える比喩表現を引用してみる。

寝不足のおかげで顔が安物のチーズケーキのみたいにむくんでいた

村上春樹『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』

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