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【現代アート②】時系列でまとめる現代アートの流れ【前編】

渋谷のドンキで暇を潰したあと、道玄坂のサンマルクカフェでこの記事を描き始めた。渋谷にいるとなぜだか酩酊詩的な気分になる。(渋谷に酔ってるのか、自分に酔っているのか定かではないが)

それでも今回は、自由な語りは最大限抑制させて、機械的に現代アートの歩みを時系列にまとめようと思う。

ジャンルやムーブメントごとに、特徴や主要なアーティストを箇条書きで記していく。

この回で大まかな流れを掴むことで、この後の現代アートの学びの吸収率が大幅に変わってくる。僕が尊敬してやまない日本史の先生もこのようなことを言っていた。(たぶん言っていた。おそらく)


なお、現代アートのジャンルやムーブメントは、互いに重なりあったり融合されたりするから、完璧にきれいに区切ることは難しい。しかし今回は便宜的に簡潔にまとめてみたから、そのつもりで見てくれたら嬉しい。


ちなみに、この記事は以下のような人におすすめである。(なんてブロガーみたいなことも書いてみる)

・現代アートの基礎教養を身につけたい人
・現代アートについて上手く説明できない人
・ざっくりと現代アートの全体像を知りたい人


前編:近代アート(戦前・パリ型・モダン)

まず、長い現代アートの歴史を分かりやすく区切るために、

[戦前]のアートを「パリ型・近代・モダン」
[戦後]のアートを「ニューヨーク型・現代・コンテンポラリー」

と、このように区分・言い換えしてみる。
そして区切るポイントを、

[戦前]のアートは「カメラの誕生〜第二次世界大戦」
[戦後]のアートは「第二次世界大戦〜現在」

といったように分けて考える。


●写真技術の登場●(1870年代-)

ではまず、どこからが現代アートの始まりなのか。
これまた難しい問題で、人によって意見が違う。

これは諸説あるけれど、僕は1870年代ごろからの「写真の誕生・普及」が現代アートの大きな発端になったと考える説に賛成してる。

カメラが発明され、現実をありのままに映し出す写真が誕生したことによって、

「写実性を追求することだけがアートの役目じゃないっぽい」

そのとき芸術家たちは思ったはずである。

「写真ができたなら、俺らがリアルな絵を書く意味って無くね?」

目に見えるものだけを描くんじゃなく、写真では表せないものを描くことをアーティストたちは考えるようになったのだ。


印象派(1870年代-1880年代)

印象日の出

写真の存在が普及し始めた頃とちょうど同じ頃、フランスで始まった芸術運動が、あの有名な印象派だ。

朝の優しく揺蕩う海面の様子、眠たさからなのか朧気な視界、それでも確かに1日の始まりを感じさせるような朝日が印象的である。

この絵は、『印象・日の出』というモネが港に朝日が昇る様子を描いたものらしい。

ちなみにこの絵のタイトルが「印象派」のネーミングの由来にもなっている。

●印象派の特徴
フランスで始まった芸術運動
・描く対象の周りの光や空気感をとらえようとした
風景その当時の生活を描いている
・写実性よりも自分の感覚の表現を優先
保守的な美術界から強く批判された
●印象派の主要な画家
・クロード・モネ
・ピエール=オーギュスト・ルノワール
・エドゥアール・マネ
・カミーユ・ピサロ
・ポール・セザンヌ

また、印象派を現代アートのカテゴリーの中に分類すべきかどうかは、議論の余地があるけれも、僕は印象派から現代アートとしてみなしていいと思っている。


ポスト印象派(1880年代-)

星月夜

こちらは、言わずと知れたゴッホの『星月夜』だ。

荒いタッチがゴッホらしい。どこか暗いような不気味なような、それでいて不快な感じはしないのが面白いところでもある。

ちなみに「ポスト」という言葉は「後期」というニュアンスよりも、「脱」といった意味合いの方が適切かもしれない。

実は、ポスト印象派の画家たちは、前の印象派の画家たちとは、少し違った作風である。

各々の道を追求してきた彼らをまとめて、ポスト印象派と言う。

●ポスト印象派の特徴
印象派の傾向を受けつつ批判的に継承している
・原始的な題材や激しい色彩を取り入れる
・それぞれの画家の画風は異なる
・形式的な共通性は少ない
●ポスト印象派の主要な画家
・フィンセント・ファン・ゴッホ(耳を自ら削ぎ落としたことで有名)
・ポール・ゴーギャン(ゴッホと共同生活をしていた)
・ポール・セザンヌ(印象主義の手法から離れて独自の作風を展開)


ドイツ表現主義(1890年代-1920年代)

カンディンスキー

カオスという他ない。あらゆる既存の秩序がこの絵では通用しない。そんな印象を与える。

この絵を描いたカンディンスキーは具象(目に見えるもの)を描くわけじゃなく、彼の大好きなクラシック音楽を聴いて心に浮かんだ内面的なものを表現したという。

つまり、「内面性の発露」を重んじるタイプの画家ということになる。

カンディンスキーは「何が描かれているか分からないからこそ、人は惹きつけられる」と考えてたそう。

まあ確かに、人間は不確実なものに惹かれることがある。恋とかギャンブルとか。(いや、忘れてほしい)

まあとにかく「何が描かれているか分からないからこそ、見る人によって意味づけが異なる」ということなのかもしれない。

●ドイツ表現主義の特徴
内面的な感情主観的な意識を表出させる
・市民生活や既存の秩序に対する反逆を目指したテーマが多い
自然主義とは相反する立場をとる
「青騎士」「ブリュッケ」は表現主義の有名な画家グループ
●ドイツ表現主義の主要な画家
・ワシリー・カンディンスキー(青騎士)
・エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー (ブリュッケ)
・エドヴァルド・ムンク (ノルウェーを中心に活動)


フォービズム(1905-)

マティス

強烈な色遣いと激しいタッチを見た批評家が、「あたかも野獣(フォーヴ)の檻の中にいるようだ」と述べたことから「フォービズム」と命名された芸術運動。

肉体的で野生動物的な生臭さがある。僕らの忘れていた野生的な、そして古典的な、総身不意に踊り出したくなる衝動的な何かが動き出す。そんな作品。

●フォービズムの特徴
・明るく強烈な色彩
感覚的かつ平面的な質感
細部の描写が簡略化されている
●フォービズムの主要な画家
・アンリ・マティス
・モーリス・ド・ヴラマンク
・アンドレ・ドラン


キュビズム(1908-)

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この見るからに革命的で挑戦的な絵画である。

言わずと知れたアート界の神様 ピカソの『アヴィニョンの娘たち』という作品である。

では、彼の何が一体、革命的だったのか?

ちゃんと説明できない人も多いはずだから、よく読んで欲しい。

●キュビズムの特徴
・ひとつの視点で描くのではなく、複数の視点から見たイメージを1枚の絵に集約しようとした
常識とされていた遠近法や単一の視点から描くというルールを覆した
パブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって生み出された表現方法
●キュビズムの主要な画家
・パブロ・ピカソ(若い頃はちゃんと普通の絵も描いてたそう)
・ジョルジュ・ブラック


イタリア未来派(1909-)

未来派

時の流れは早く、産業革命が起こると、ヨーロッパでは資本主義社会が支配的になった。カネと戦争と工業の時代の到来である。

それによって科学技術が進歩すると、戦争で人間を大量に殺戮するための兵器が製造されたり、旧来の価値観が大きく揺らいでしまった。

それに伴う不安を背景に隆盛したのが「(ドイツ)表現主義」だったのだが、しかしそれとは反対に、

「なんか兵器とかカッコよくね?メカっぽいのとか、速い機関とか、テンション上がるわ〜」

と小4男子的なノリで近代化を肯定的に称えたのが「未来派」だった。(誰かしらに怒られそう…。だが、いやむしろ親切に怒ってくれる人の方が大切であると社会に出てから感じたものである)

●未来派の特徴
・純粋に肯定的に近代文明の産物や機械の登場を捉えた
対象物の動きを一枚の絵に同時に描く
運動性(ダイナミズム)そのものの美を描く
工業機械文明都市化を象徴する速度・運動・雑音がテーマ
・スポーツ・自動車・飛行機・都市・鉄道・機械などに表象される
・一部には戦争賛美の傾向もあり、ファシズムとも繋がっていった(危険思想だね)
●未来派の主要な画家
・ジャコモ・バッラ(上の犬の絵を描いた人)
・ウンベルト・ボッチョーニ
・ジーノ・セヴァリーニ


ダダイズム(1910-)

ダダ

1910年代当時、世界のあちこちで戦争が勃発していて、芸術家たちは、どんよりムードの世界にテンションナイアガラだったらしい。

そこで彼らは気づいてしまったのだ。

「いま、世界で戦争が絶えないのは、人間が理性的なのが原因じゃね?」

「人間の合理性や思考そのものが、諸悪の根源じゃ!」

そこで、彼らは片っ端から既存概念を壊しにかかった。そう、破壊は気持ちがいい。構築するのは緻密な設計と計画性が必要だが、破壊するのは、ただ眼前の既存のものを否定すれば良いのだ。

これまで良しとされてきた芸術そのものに歯向かい、彼らは美術の常識を否定し出した。

しかし、案の定、破壊のムーブメントには限界が訪れる…。

●ダダイズムの特徴
第一次世界大戦中のヨーロッパやアメリカで起きた反芸術運動
・戦争に対する抵抗虚無感人間理性への疑問が根底の思想
既成の秩序や常識に対する否定、攻撃、破壊
・「ダダ」は辞書から無作為に選んだ意味のない言葉
・それまでの芸術の否定に留まらず「人間の理性(作為・意識)」そのものを否定
「意味のない芸術」「無意味な芸術」
・切り貼りと寄せ集めによる「コラージュ」が見られる
・各国に影響が派生した
●ダダイズムの主要なアーティスト
・トリスタン・ツァラ(ダダ宣言した人)
・アンドレ・ブルトン(のちツァラと決別)
・マルセル・デュシャン(ニューヨーク・ダダで活動)


レディメイド(1910年代-)

泉

前回の記事でもお馴染みのデュシャンの『泉』である。

初めてみる人はよく分からないと思う。ただインパクトはあるけれど、なぜこれが美術として価値あるものなのか、難しいと思って当然だ。

しかし僕の【現代アート入門①】を読んでくれた方なら、もうちゃっかりばっちり理解してくれたと思う。

デュシャンは、長い年月をかけて視覚的に限りなく無関心なものを探し続けた、というある種の矛盾したことを探究し続けたアーティストであった。

つまり、このデュシャンの『泉』というレディメイド作品を見て、
「便器のフォルムが美しいですな〜」とか美的判断を下すことは全くのナンセンスなのかもしれない。

●レディメイドの特徴
大量生産された既製品の中から、人々の無関心に最も近いものをオブジェとして展示した
・元々は既製品を意味する言葉だが、マルセル・デュシャンは作品の「カテゴリー的な概念」として位置付けた
非芸術的なものを「芸術」の領域に持ち込んだ(そのこと自体がすごい革命的)


シュルレアリスム(1924-)

記憶の固執

「なんか凄いインパクトはあるんだけど、正直何がなんだか分からない。」

僕たちがシュルレアリスムを見て、そう感じるのはごく自然なことである。

シュルレアリスムというのは、理性的なもの徹底的に排除して、人間の思考の真に純粋なものを記述しようとする試みであった。

彼らシュルレアリストは、自分の意識とは無関係無作為に降りてきた言葉をとにかくすごいスピードで書きとるという実践をした。(その手法のことを、自動記述(オートマティズム)とか言ったりもする)

思考の介入の余地をなくすため、とにかくどんどん思いついた言葉を書き連ねていく作業らしい。(僕も一度やってみたのだが、下品な言葉ばっかり思い浮かんでしまったことは、若さを言い訳に許してほしい)

ちなみに、実際、自動記述によって書かれた文章(『溶けた魚』)を試しに読んでみたのだが、もう何を言っているのか全く分からず、もう二度と読みたくないとも思った。

●シュルレアリスムの特徴
理性の否定意識に抑圧されている無意識を発露する
無意識の世界を良しとする
フロイトの「精神分析理論」が理論的根拠
●シュルレアリスムの主要なアーティスト
・アンドレ・ブルトン(シュルレアリスムの創始者)
・ジョルジュ・デ・キリコ
・マン・レイ
・サルバドール・ダリ(上の絵を書いた人です)
・ルネ・マグリット
・マルク・シャガール


終わりに(後編へ続く)

そして、戦争が始まり、現代アートの舞台はパリからニューヨークに移っていく。

時代の変遷とともに、アートシーンも移ろってゆく。

ずっと変わらないものなんて、実はほとんどなくて、諸行無常の世界線で現代アートは破壊と構築を繰り返してゆく。

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