家の作りやうは
今日は午後から雨が降るらしい。それも結構な強い雨だそうな。もうひと月もすれば梅雨が始まって、ジメジメムシムシの日本の夏が来る。
家の作りやうは、夏をむねとすべし。
色んな住宅建築の本に書いてあるフレーズで、出典はご存知「徒然草」。冬寒いのはなんとか耐えられるけれども、夏暑いのはしんどい。
だが、現代人の僕はどちらもしんどい。冬暖かく、夏涼しく、一年中快適に過ごしたい。誰もがそう願うところだと思う。ジメジメの夏はサラッと涼しく、北風カラカラな冬はしっとり暖かく。うん、そりゃそれがいいよね。
じゃあ、春と秋はどうだろうか。
僕は花粉症持ちだから、3月から4月は窓を開けられない。なるべく外気は入れずに、引き篭もりたい。
けれどそれが終わった5月、6月は、とても気持ちのいい季節だ。窓から入る風は優しくて、日差しもまだそれほど暑くない。窓を開け放って、日差しは少し遮って、陽だまりで庭木を眺めながらコーヒーを飲んだりして。
雨が降ればしとしとと地面に染み込む雨音を聴いて、蛙が梅雨を待ち侘びる声を聴く。濡れた道路を車が走る。傘に雨粒が落ちる。
秋は突き抜ける青空の下で、落ち葉が擦れる音がする。少しずつ傾く日差しが郷愁を誘い、センチメンタルな気分になる。長く伸びる建物の影を見て、そろそろ植物を室内に取り込むか、と考える。
冬が近づくにつれ凛と澄む空気を感じて、人肌恋しくなりもする。長い夜に読みかけの本を開いて、虫の音を聴く。
春と秋は、できるだけ季節を感じたい。
雨の日も、窓を開けて雨音が聞こえるように。
爽やかな風が家中を通り抜けるように。
家の中と外の間に、腰掛けてコーヒーが飲めるように。
葉が落ちて、裸の木々が冬へと誘うのが見えるように。
日差しを少し遮って、陽だまりにまどろむ時間を持てるように。
少しの工夫で、季節を感じる家にできる。せっかく日本には四季があるのだから、せめて過ごしやすい季節だけでも、外を感じたい、と僕は思う。
家の作りやうは、春秋をむねとすべし。
新しい家づくりの定番になればいいな。庭には木を植えて、町並みに配慮しながら近所みんなで景観を作って、あたたかい町になればいい。近所の子供の遊ぶ声が聞こえて、夜には窓からオレンジの明かりが柔らかく漏れる。昔の日本の町は、こんな感じだったのかな、と想像する。
手入れが手間だから庭はコンクリで埋めて、防犯のために窓はシャッターで締め切って、近所の人の顔も知らない。
現代人は時間がないらしいから、今の暮らしには合っているのかも知れないけれど。けれど、ちょっと、寂しくないかい。
敢えて、手を入れる。敢えて、面倒に作ってみる。時間がないからやめるのではなくて、時間を取らなくちゃいけないように作ってみる。
敢えて、季節を呼び込む。敢えて、外に開いてみる。時間の流れが少し緩やかになるのを感じて、忙しい毎日にほっとできる一瞬の空白を生む。
そんな家に住みたい。
そんな暮らしをしてみたい。
あなたの場合はどうだろうか。
あなたの理想とする、家の作りやうは。
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