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エッセイ|第21話 薔薇色に染まる奇跡の石窟都市
地下都市見学の翌日、私と友人は岩窟教会を目指した。途中のどかなオリーブ畑の脇で大きな平籠を抱えた少女に出会う。中身は玉ねぎスライス。それを1ドルで売っている。玉ねぎはいらないけどあげると紙幣を差し出せば困惑しつつもはにかんだ。何度も手を振りながら、彼女はまたオリーブの中を歩いて行った。
教会に着き、美しい天井画を見ていたら表が急に賑やかになった。見学のバスか。内部はすぐに女の子たちでいっぱいになる。始まったトルコ語のレクチャーを傍で聞けば、わからないけれどなんともいい感じだ。
自由時間になった途端、わっと彼女たちに囲まれた。どこからきたのか名前は何か、一緒に写真を撮ろう、あなたの顔が好きだと頬を染める。エジプト研修時の経験から、顔じゃなく髪なのではと思ったりもしたけれど、覚えたてのトルコ語でお礼を言ったら、その頬はますます薔薇色になった。帰り際、バスの窓を開けみんなが手を振ってくれた。
私たちも教会を後にする。歩き出したものの雲行きが怪しくなってきた。通り雨だ。近くのカフェに入れば、オーナーはなんと行きに声をかけてきたタクシーの運転手さんだった。お茶を待っていると、小さな女の子がやってきて横に腰掛けた。娘さんらしい。
私の手をじっと見ていた彼女が奥へと走る。戻ってきて、目をキラキラさせて手を見せる。指先が赤く染まっていた。何かに浸してきたようだ。ああ、私のマニキュアの真似。薔薇色の頬で嬉しそうに笑っているのがなんとも可愛らしい。
雨が強くなり、ゆっくりしていけよとオーナーがおもむろに楽器を弾き始めた。娘さんが私の手を引いて一緒に踊れと言う。私は笑いながら一緒にステップを踏んだ。しばらくして雨が上がったので歩いて帰ると言えば、カフェの前で親子は長い間、手を振ってくれた。
そんな帰り道、ふと拾い上げた石はほんのり薔薇色で、出会った女の子たちの指先や頬を思わせた。遠くに見える山も同じ色。カッパドキアの色だ。そこに奇跡のように虹がかかった。とてつもなく美しかった。たまらなく愛おしさを感じ、私はそれをそっとポケットに入れた。
その夜の長距離バスで、私たちはイスタンブールへと戻った。
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