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【詩】新しい夜明けの誕生

見上げるほどに大きな門の脇にしゃがみ込み
私はその花を手折たおった。
手折たおって、手折たおって、籠を満たした。
一日の始まりを告げる空のような
淡く軽やかなその色。

そんなに摘んでしまったら
夜明けが来なくなりますよ。

その声に振り向くことなく私はつぶやいた。

来ない方がいいこともあります。
醒めない夢のままがいいことも。

籠を握る私の手に彼は自分の手を重ねた。

それでも人は求めるんです。
切ないと知っていても
求めずにはいられないんです。

大いなる欲張りですね。
例えようもない馬鹿者です。

彼が微かに笑った。
だからこそあなたは育てているのでしょう?
幾千も幾万も。
誰もが求められるよう。
こんなにも美しくてはかないものを。

俯いたままの私に彼は続けた。
大いなる欲張りで
例えようもない馬鹿者は、
けれど誰よりも健気で心優しい。
傷つきやすくて寂しがりで。
だから夢を届けるのですよね?
夜明けを美しいものにするのでしょう?
花柄はながら摘みを手伝いましょう。
いえ、手伝わせてください。

籠を握りしめたまま、
冷え切っていくはずだった手に
彼の温もりが伝わってくる。
夜明け色の薔薇たちが
ほんのりと頬を染めたような気がした。
また一つ、
美しさをまとって新しい夜明けが目覚める。

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