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【物語:自由詩シリーズ】第1話 兄と私と始まりの時

いつかまた一緒に住もう。
今は離れ離れになってしまっても、
いつかまた一緒に。

私たちは約束した。
私は泣いていた。
兄は微笑んでいた。

母の遺してくれた風渡る丘の上の
隠れ家のような小さな家で。
お気に入りのお茶を二人で飲もう。
花咲く夏の大地を裸足で歩き、
雪の夜には抱きしめ合って暖まろう。

深く濃い青の瞳が私を見つめる。
きっと上手にケーキを焼くわ。
言えたのはそれだけで、
あとからあとから涙がこぼれた。
それを拭いながら、
兄が私の耳にそっと囁いた。
楽しみにしてる。
素敵なティーセットをプレゼントするから。


そして私たちは今、古びた鍵を回す。
遠い日の記憶の瞼がゆるやかに上がり、
吹き返した息が空白を飛び越えて結びつく。

兄と私の周りゆく季節、流れゆく時間。
ささやかな日々の、果てしない喜び。
美しい1ページの、愛おしい重み。

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