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エッセイ|第28話 花咲くアンダルシア、憧れのパティオ

マドリッドからAVEに乗った。行き先はコルドバ。パティオ! 憧れの中庭! 駅を出て、はやる胸を押さえつつスーツケースを押し出した。

「……」

はっきり言おう。整備された通りが当たり前の都市以外では荷物は担ぐ系にした方がいい。小石が敷かれた道は可愛いがスーツケース向きではない。これはもう、転がすではなく引きずるといった方がいいだろう。しかしまずは宿を決める前に街歩きだ。

美しい装飾模様の扉の向こうを一つ一つ覗きこむ。ああ、アイアンワーク越しのパティオ。素晴らしい、素晴らしい、入りたい。そう思っていたら前から女性が二人やってきて、ちょうど見ていた扉に手をかけた。

「あら」
私に気づいた一人がにっこり微笑んだ。
「泊まりますか?」
私は速攻で答えた。
「お願いします!」

新しくできたばかりの宿の、自慢のパティオを友人に見せようと招いたところだったようだ。なんというラッキー!

彼女たちに続いて扉を抜ければ、こじんまりしているけれどとにかく可愛らしい。ケ ボニート、ムイ ボニート。友人女性は大絶賛で、ボニートの嵐が吹きおこる。後年、家を買ったメキシカンの友人にこの時覚えたフレーズを連発して抱きしめられた。言葉とはこうやって生きたものになるのかとしみじみ。

それはさておき、この中庭の足元は土ではなく石だった。建物と同じような白い石。明るくて清潔感がある。思わず裸足になって歩きたい衝動にかられた。

真ん中には大きな噴水が鎮座していた。これも同じように白っぽく、降り注ぐ陽光の下、きらめく無数のしずくが生まれるさまに惚れ惚れする。まだ花は少なかったけれど、数年もすればきっとあふれるほどになるだろう。

回廊式の四方の部屋が客室で奥に共同のバスルームがついていた。朝食は宿を出てすぐのオーナー友人のバルへ行く。もちろん噴水の周りに置かれたテーブルや椅子を好きなように使うこともできる。

値段も良心的だし掘り出し物だと思った。「また泊まりたい宿」リスト入り確定だ。こうして素敵な滞在に胸膨らませた私だったけれど、この後メスキータで珍事に遭遇することになる。花咲く古都にはきっと秘密がいっぱいなのだ。それもまたいつか書けたら。

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