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【詩:物語】揺らめく午後の誘惑

午後の会議の後に一人密かに抜け出した。
週末は目の前、商談も無事終わり。
文句はないだろう。

夏の新作アフタヌーンティー
揺らめく午後の誘惑

意味深なタイトルに首を傾げつつ
それでも意気揚々と茶葉を選んでいたら
いつの間にか目の前には微笑む人。

うまくまいたはずだったのに
どうして彼がいるのだろう。
疲れているのだろうか、
どうも頭が回らない。

美味しいものは分け合うことで
より美味しくなりますよ。

たっぷり一拍おいて、
誰と分け合うかが重要だけど
と澄まし顔に向かって答えれば
軽やかに笑った彼が続ける。

正論だ。すいません。
きちんと言うべきでしたね。
あなたと分け合うからこそ
美味しくなるのですよね。
あなたとしか分け合いたくありません。

そう言って彼が目を細めれば
上品な午後のラウンジに
怪しい風が吹いたような気がした。
悪びれる様子もない彼に絶句する。

気がつけば、
運ばれてくるあれもこれもが
なにやらいつもより艶めいていて
私は追い詰められた子鼠こねずみのようにおののいた。

さあ、ほら、口を開けて。
あなたにぴったりの薔薇色だ。

小さなタルトをさらに小さく切って
差し出す彼にもうあらがえない。

揺らめく午後の誘惑。
まさにその名の通り、
なんとも危険なお茶会の始まり始まり。

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