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7日後に死ぬカニ(完結編)



「好きな食べ物はなんですか?」

幼稚園の先生に聞かれて、中学校のサイン帳でも聞かれて、大人になった今でも、たまに聞かれるこの質問。みんな「ダントツでラーメンっすね」とか「いちご〜!」とか、ひとつに絞れてて、めちゃくちゃすごいなって思う。私は50個くらいあるので、脳内でルーレットを回し、ひとつ決めて伝えるようにしている。


けれど、これからは「カニです」って、相手の目を見つめて言おうと思う。


(少しだけ、前回の記事を振り返ります)


6月に入ったある日、近所の業務スーパーへ夕飯の買い出しに行った。「甲殻類が食べたいな」と鮮魚コーナーに行くと、20匹590円のサワガニが、1パックだけ売っていた。20匹はぎゅっとなって、少し動いていた。

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「そう言えば私、植物を育てて食べたことはあるけど、動物を育てて食べたことがない。どんな気持ちになるのやろう」こうして業務スーパーのサワガニを1週間だけ飼うことにした。


食材として売られていたカニたちと、7日間を過ごす間に、感情や発見が毎日あふれた。何度も何度も、心が動いた。

そのあふれるものをnoteに書き留めることにした。つらつらと並べているので、まとまりがないかもしれないけれど、ぜんぶ覚えておきたいこと。

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7日間のレポート


1日目。
前のnoteで書いた通り、ポン菓子を両手で食べるカニたちを見て、秒で、いや刹那で、愛が芽生えた。

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けど実は、20匹のうち2匹は、連れて帰ってきた時点で死んでしまっていた。残った18匹、弱っている子達も多かった。このときは「かなしい」よりも「わ…死んじゃってる…」という気持ち。それでも、いつも業務スーパーで買うものはすべて死んでいるのに、今回は「わ…」ってなるの、不思議なことだな、と思った。


2日目。
「サワガニはなんでも食べます」
「いろいろ食べたほうが元気です」
「ミミズも好きです」

そう書いてあったので、畑に居た小さいミミズをあげた。ポン菓子と違って、少し複雑。

あとその日、私のおやつはいちごだった。「カニもビタミンCは摂ったほうがいいな?」と思って、いちごのかけらをあげた。いちごを食べてるカニの隣で、私もいちごを食べてる。なんか同じ釜の飯感あって、嬉しかった。サワガニを飼うと、一緒に食事できるのが楽しいということに、早くも気づいてしまった。


3日目。
でも朝起きたら、さらに2匹死んでしまってた。1日目に死んだカニを見たときより、悲しかった。もともと弱っていたのか、私の育て方にまずい所があったのか。わからなくて、悲しかった。もっと知ろうとおもった。

「死んだカニ、食べたほうがいいのかな」と考えたけど、あまり食材に見えなかった。それから、時間が経っていると良くないらしいので、そういう面も考えて、近くの川に還した。きっと人間以外の、だれかが食べる。何かにつながったら嬉しい。

残ったみんなと、パプリカを食べた。いろんな色のものをあげようと思って。明日は緑色のものをあげよう。気分は女神(前記事参照)から寮母へ。献立を考えるのが楽しい。

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4日目。
日中、出かける用事があって歩いてると、何もかもがサワガニに見える現象が起きた。

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面白い現象だな、と思って、他にもサワガニに見えるものがないか自分のカメラロールを眺めていたら、ベスト1が見つかった。

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夜はサラダうどんを一緒に食べた。(もちろんカニには味付無し) 個体によって、食べ物の好みが違うことがわかってきた。あまり食べないカニにはポン菓子をあげると、やっぱり両手で掴んで、嬉しそうに食べていた。

その夜、見るからに元気がないカニがいたから、個室に移動させた。サラダも、うどんも、食べなかった。ポン菓子をあげたら、掴んで、食べようと口まで持っていってた。けど、あまり口が動いていなかった。




5日目。
元気がなかったカニが死んだ。なぜか脚がいくつか外れていた。かなしかったけど、脚に対する不思議があったから、少し我慢できた。調べたら、カニには「自切」といって、もうダメ!ってなったときに、自分から脚を切り離す習性があることを知った。(このカニのしたことが自切かどうかはわからない)

カニは、動きには表情がある。でもずっとポーカーフェイスで、喋らない。辛くても苦しくても、目がくりくりしてる。元気がなかったカニも、「しんどいなあ。もうダメかもしれない」って思ってただろうに、「ねむいなあ、おやすみしよかな」とも取れそうな顔をしていた。私に知識がないだけかもしれないけれど、

…そう考えれば、赤ちゃんはわんわん泣いてくれるし、スネて愚痴をいっぱい言う人だって、わかりやすくて有り難いな、と思った。


そのカニは、向かいにある田んぼに還した。鴨や鷺がよく来る田んぼだから、鳥が食べて、そして巡ってくれると思う。

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残ったみんなとは、豆腐とサバを一緒に食べた。豆腐、人気だった。サバは大人気だった。(ちなみに定食のつもりで、ポン菓子は毎日あげていた)

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6日目。
みんなの色艶が変わってきている気がする。気のせいかもしれないけど、甲羅がしっかりして、鮮やかに光ってる。あと、ちょっと大きくなっている気もする。

そうして「元気になってきた」と思っていたのに、夜、1匹死んだ。毎日同じものを食べたり、変化に立ち会っているからか、ものすごく悲しくて泣いた。夜にさよならするのはしんみりしてしまうので、とりあえずタッパに入れて、冷蔵庫に入れた。タッパに入って冷蔵庫にあるのに、食材には、ちっとも見えなかった。ほぼ毎日、死に触れてる。


7日目。
朝、冷蔵庫からタッパを出した。カニはひんやりしている。蓋をあけて、「寒かったな」とか言ってる自分がいた。ちりめんじゃこもずっと冷蔵庫に入っているのに、不思議だなと思った。

これまでは川や田んぼに還していたけれど、このカニは、畑に埋めようと思った。私の家には、小さい畑がある。トマトの下に埋めたら、土に還って栄養になる。そのトマトを私が食べたら、カニを食べたことにもなるかな、と思った。

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動物に掘り返されないよう、深めに掘って、入れた。カニはまぶたがないから、死んでも目があいてて生きてるみたいだし、苦しそうじゃない。表情がわからなくて困ることもあるけれど、苦しそうじゃなくて本当に良かった。お花を添えたら、ものすごく可愛くて、目が腫れるくらい泣けてきた。

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家に入って、残ったカニたちを見て、「絶対に食べられない」と思った。でも、きちんと、「食べる」に向き合って7日目を過ごそう。そう思って、夕飯の買い出しへ、業務スーパーに行った。


どんな料理にしようかな…ポモドーロ・テクニックされたから(前記事参照)トマトパスタも考えたけど、ほんとにみんなポン菓子がだいすきだから、お米系にしようと思った。かにチャーハンとかかな。

あと、どうしても無理だったとき用に、カニカマを買った。

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夜。




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みんなで、カニカマを食べた。

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食べているのは、カニじゃなくて、カニカマ。すごくおいしいカニ(カマ)チャーハン。なんか、なんとも言えない、はじめての気持ちが押し寄せて、べそべそ泣きながら食べていた。



7日後にカニは死ななかった。
私はカニを食べなかった。
みんなでカニカマを食べて、
みんなで明日も生きることにした。



さいごに


ファミチキは、にわとりの10分の1匹なんだって。スイスではロブスターを生きたまま調理するのを、法律で禁止しているんだって。そんな風に、食材と生き物の境目に関して、とてもよく考えるようになった。

残ったカニたちはあれからも、毎日元気に生きている。最近、私が近づくと「ごはん?」って出てくるカニが何匹かいる。それから、まだ脱走しようとして、2匹で協力しながら石を積み上げはじめた賢いカニもいる。(ほんと起業すればいいと思う)でも、それを見つけて「あっ」って言うと、マンガみたいにワタワタ動いて、石のかげに隠れてる。


もう2週間。そこまで豊かな環境で育ててあげられていないから、もしかしたら短い寿命かもしれないけれど、一日の中で一番口にする言葉が「カニ」になってるくらい、きみたちが大好き。



私の好きな食べ物は、
食べられなかったカニたちです。


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▼おまけ。

10日目。(めっちゃ入荷してた)

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2020.6.17追記
たくさんの方に読んでいただく中でご指摘いただいたのですが、別の場所で育った生き物を川や田んぼに放つのは、たとえ死んでいたとしても、その場所のあるべき環境や生態系が崩れる可能性があり、とっても危険なこと、とのことです。すごく失敗してしまった…ごめんなさい...!(どんな風にするのがいいか、詳しい先生に聞いてから、また追記しますね)
2020.6.22追記
詳しい先生方に聞いたことも含めて、noteにアップしました。
>>後日談「数日後に死ぬカニ」


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