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数日後に死ぬカニ(後日談)


いつかは死んでしまうカニたちの、お葬式を考えることにした。


当たり前のことだけど、生き物は、いつか死ぬ。私もだし、今私のおうちで暮らしているサワガニたちも。


先日、「7日後に死ぬカニ」という、業務スーパーで買ったサワガニを1週間だけ飼ってみる、という実体験をnoteにしたためた。

たくさんの方(30万と1700人...!)に読んでいただき、コメントやツイートは、本当にどれも嬉しいものだった。


(あれ…ちがうな…ザリガニのTシャツだった)

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「子どもと読みましたよ。今日もカニさん読んで!と言っています」「LINEグループで回ってきて、みんなでいい話だなあ…って言ってたのに、気づいたらカニチャーハン食べに行く話になってました。大好きな友達とおいしいカニチャーハン、食べてきます!」

胸が熱くなりすぎて、涙が沸騰するかと思った。愛する人たちと楽しい時間を過ごすきっかけになったなんて、これ以上嬉しいことはない。



「カニたちは元気ですか?」とご連絡をいただくこともある。伝えるのがとても心苦しいのだけど、あれから2匹、そのあと1匹死んでしまい、全部で11匹になった。

私の反省と興味を深める大切な指摘も受けた。主に、生態系のこと。今から何ができるのか調べた。専門的な方々にお話を聞くこともできた。(本記事に載せます)


そうしていろいろ知ることで、死んだ3匹のカニたちや、いつか命を終えるカニたちを、またひとつ歩み寄った方法で弔ってみたい、と思った。そんな感じで、今日は後日談として、カニたちのお葬式を考えた話「数日後に死ぬカニ」を綴ります。



カニは最後に、何を見たのだろう


2匹が死んだ日、ぽろぽろではなく「うわーん!」と声をあげてしまった。そしてその日、さらに、「明日までもつかどうか」のカニを見つけた。一緒にいると、おとなしくしているのか、それとも元気がないのか、だんだん分かるようになった。ひとり部屋に移動させて、ゆっくりしてもらった。

声をあげるまで泣いたことで、少し悲しみに耐性がついたのか、息を引き取るところを見ることができたからか、その1匹の前では、さざ波みたいな気持ちだった。カニは死ぬ直前、両手をあげていた。「人生ばんざい!」と言っていることにした。だって、noteを通して、とってもたくさんの人に愛された。

(写真撮ってないので、空室のひとり部屋、貼る)

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でも、本当にどんな気持ちだったのか、少しでも考えてみる手がかりはないかな?と思った。


ひとつ気づいたのは、ひとり部屋のカニは、両目をぱたん、と倒した感じで命を終えたこと。先日、トマトの畑に、お花と一緒に埋めたカニは、少し目が立ってた。どう違うんだろう。そもそもみんな、どれくらい見えているんだろう。


調べたら、カニは昆虫みたいに「複眼」で、1つに見える目が2000個もあるみたい。目をピッと立てると視野はとても広くて、種類によっては360度。パノラマ写真をまるくにしたような感じに見えている。けれどあんまり視力は良くなくて、0.1あるかないか、らしい。私と同じで、すごく嬉しい。

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ということは、トマトの下にいるカニは、最後まで何かを見てたのかな。他のカニたちもいる中で死んでしまったから、警戒したまま、命を終えたのかもしれない。お花、添えてよかった。

逆に、ひとり部屋のカニは、安心してくれたのかな。違うかもしれないけど、そうだったらいいな。



たくさんの先生と、弔い方の反省会


死んでしまった3匹、どうするのがいいだろう。

何にせよ、まずは前回の弔い方を省みたい。いろんな職業の人に記事を読んでいただき、意見をお伺いした。それから、お葬式を考えようと思った。

※一個人の書く記事内なので、団体を代表する見解とならぬよう、お名前や所属をぼかします。あと、削って意味が変わると良くないので、必要な所ほぼそのまま引用しており、少し長いです。


■生き物の博物館的施設の方

生きていれば、たとえその土地に暮らす生き物と同種でも、絶対に放してはいけません。同じ生き物でも、地域ごとに遺伝子が異なるため、その土地固有の形質を損なう恐れがあります。しかし、死んでいるサワガニ1〜2匹の影響は極めて限定的です。あとは、死んでいても付着生物が生きているケースも。埋葬前に冷凍処理すれば、そのリスクも無視できますね。
生き物の世界は、究極、人間がこうだと思っているだけで、本当のことはわかりません。でも、少し詳しくなれば、たとえば公園の鳥が何という名前で呼ばれていて、どうして鳴いているのか、そんな生き物の考えに少し寄り添うことはできるんじゃないかと思っています。自分の仕事は、そんな生き物の不思議を子ども達にわかりやすく伝えることです。
人間ほど、いろんな生き物と関わりのある生き物はいないかもしれませんから、その分、他の生き物のより多く、いろんな生き物のことを考えられたら素敵だなと思っています。


■生物の認知・進化心理学を研究している方

私も、自宅でミニブタ(先日亡くなってしまった)と暮らしながら、けれどある日のランチでトンカツ食べている自分の中の矛盾に、違和感を覚えつつ、受け入れた経験があります。
さて、サワガニの埋葬についてですね。死んだカニ1、2匹が生態系を「壊す」ことはないと思うけれど、寄生虫や病原菌がカニの中で生きていた場合で、なおかつ、その寄生虫や菌が、そのカニの出身地の固有種だったなら、生態系に「影響がある」可能性はゼロではありません。でも今回のサワガニについては、国内での移動だし、ご自宅近辺の川に寄生先となる同じサワガニが生息しているとも限らないので、敏感になりすぎなくていいかも…というのが、個人的な感想。
いずれにせよ、少なくとも、トマトの畑に埋めたのは、問題無いと思います。土中生物に、水中生物に寄生する生物が影響を与えることは、ほぼほぼないのではないかと考えます。
話は変わりますが、そもそも人間の言葉によるコミュニケーションは、サルのグルーミング行動の延長として生まれたという説があります。グルーミングは、受ける側にも拒否権がありますから、自分にとっていらない言葉は、時に、受け止めなくて、いいのかもしれないですよ。


■自然保全に取り組む行政機関の方

サワガニ面白いね。死骸を川や田んぼに捨てる行為(←敢えてこういう言い方をしてみましたが)による生態系への影響ですが、可能性としてあるのは、病原菌・ウイルスを持ち込むことです。もしかしたら地域固有の何かがくっついているかもしれないので。
ただ、今回については、あまり悩まなくてもいいと思います。理由は、捨てる場所にもよりますが、農薬使いまくりの田んぼとか、たとえば都心を流れる多摩川にサワガニの死骸を1匹2匹捨てたところでどうにかなるものでもないだろうということ。そもそも、その場所本来の生態系とは…というところです。山奥のきれいな清流とか、湿原みたいな脆弱な環境だったら気をつけるべきでしょう。
が、私達がおおっぴらにそう言えるかというと、難しい。ご友人がサワガニを埋葬するくらいなら影響がなくても、「大丈夫なんだ!じゃあ…」とみんなが色々捨てまくったら、何かしら影響は出る可能性があるので、「なるべくやめた方がいいですね」という回答になりそうです。
現実として、川でも海でも釣り餌とか捨ててる人がいたり、それを問題視している人もいます。なので、どこまで目くじらたてるのかという点で言うと、やっぱり難しいかな…


■外来種対策に関する仕事をしていた教授

具体的な影響は、その個体や、場所の環境をきちんと調べないとわからないけれど、死んでいるサワガニについては、しじみの殻を川に捨てるのと同じですね。とにかく、あまり気になさらず。


■ご近所の農家さん

埋葬についてですが、適切な処理をすれば、カニは肥料になります。調理後の殻は、洗って乾かして粉砕したあと土に混ぜれば、含まれているキチン質が、花や野菜が育つのに必要な菌を元気にしてくれます。「カニ殻肥料」と検索してみてください。いろんな商品がありますよ。


■食材として研究している料理人

僕はやっぱり、食べるからなあ。でも、そうなったら一番おいしい方法で食べると思う。ちなみに死んでしまってからでも、すぐ調理したり冷凍庫に入れておけば、全然問題なく食べられますね。
食べ方は、やっぱりフリットでしょう。もしカニの姿を認知しながら食べることに抵抗があるなら、ミキサーで粉砕して、サワガニのスープはどうかな。あとは、僕はその食材が生まれた土地の風土からインスピレーションを受けたり、地元の人がどうやって食べているのかを、自分なりに編集して調理するのが好きだから、そんなことも考えます。



守護神になってもらえるほどのお葬式をする

似ているこたえでも、どんなことを大切にしていて、どんな職業で、誰に伝えることが多いのかで、表現される言葉が違った。新しい知識が身についたことも、それに触れられたことも、とても豊かだった。

そして、料理人さんの「生まれた土地の風土からインスピレーションを受けたり、地元の人がどうやって食べているのかを、自分なりに編集して調理する」を聞いて、それだったら、死んだカニを食べてみたいと、はじめて思えた。


お葬式って、故人が大切にしているものごとが集まる。だから、カニのおばけが喜んで、私の守護神になってくれるくらいの、究極の調理法で弔いたい。それを、私なりのお葬式としたい。


決めた。私は、友だちのふるさと、宮崎県に行く。

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宮崎県、はじめてだなあ。恋人の実家を訪ねて、親御さんに結婚に向けたご挨拶をする気分。そう思うと、やっぱ冠婚葬祭ってつながっているなあ。

カニたちみんなは、私のおうちにやってくるまで、何を食べていたんだろう。生まれた場所からはどんな風景が見えていたんだろう。他にはどんな食材が豊かに採れるまちで、どんな郷土料理があるんだろう。そこで得たもので、調理方法を考えようと思った。



今日時点では、ここまで。連載みたいで楽しくなってきた。県をまたぐ移動の規制が解除されたけれど、もう少しだけ様子を見つつ、資金や情報を整えてから、いってこようと思う。宮崎県にお住まいの方がいたら、ぜひ、おすすめの場所を教えてください。


ちなみに、食べることをお葬式にすると決めてからも、残ったカニたちへの気持ちは変わらない。むしろ、彼らがこの世を去っても、自分の中でいきると思うと、愛おしさが10倍にふくらんでいる。



▼おまけ
リサーチしまくってたら見つけた。パック一緒だから、絶対兄弟。


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