日本プライマリ・ケア連合学会学術大会シンポジウムの報告
2024/06/07~2024/06/09 に開催された日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA2024)において、当協会企画のシンポジウム「地域を創るコミュニティホスピタル、その未来を描く」を開催いたしました。(座長:当協会理事、㈱メディヴァ代表取締役社長 大石佳能子)
6/8土曜の8:30~という早い時間にも関わらず、会場は満席、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。会場・オンデマンド配信にて視聴いただきました皆様には御礼申し上げます。
シンポジウムのテーマは「地域を創るコミュニティホスピタル、その未来を描く」
日本の多くの地域で過疎化や高齢化、核家族化や個人の価値観の多様化などによって、地域を支える人材が不足し、住民同士のつながりが希薄になってきています。
私たちが目指すコミュニティホスピタルは地域医療を守るためのものですが、そもそもの地域(コミュニティ)が衰退してしまうと、当然のことながら病院は存在できなくなってしまいますので、私たちの目指すコミュニティホスピタルは、地域(コミュニティ)も活性化させることも目指しています。協会の名称である「コミュニティ&コミュニティホスピタル協会」もこのような思いからつけられたものです。
Why、How、Whatの切り口で
シンポジウムでは、各コミュニティホスピタルが行っている 地域活動(地域志向型ケア)のあり方やそれを支える組織づくりなど、、を様々な角度から紹介しました。
一口に地域活動といっても、様々な側面があることから、今回のシンポジウムでは、「地域活動を始めた動機(Why)」「その動機に対してどのような方法を考えたか(How)」、そして「どのような地域活動を行ったのか(What)」という共通の切り口でそれぞれの演者が発表しました。
1.世田谷区と共に進める ACP普及啓発の取組み
最初の発表は、東京都世田谷区の桜新町アーバンクリニックの五味医師から、行政と連携した地域活動について発表しました。
ACP啓発の必要性を感じて、もともとは1クリニックとして連携先介護事業所などに対して勉強会を行っていましたが、数年前から世田谷区の事業としてACP啓発の様々な取り組みを進めるようになったとのこと。ACPガイドブックという小冊子の作成、区民向けのACP講習会や、各地域包括支援センターが独自で講習会を開催できるように資材に提供するなどの取組みの結果、行政と連携したことによって、広く啓発が進んでいるというお話でした。
2.地域診断 × 地域志向型ケア
2つ目の発表は、茨城県常総市の水海道さくら病院の山口賢さんから行われました。同院は、数年前に鬼怒川の堤防決壊で地下と一階が水害にあうという経験がありました。その水害での復興の陰には地域住民の協力があったので、地域に恩返しをしたいという気持ちが大きいとのことです。
最初に始めたのは「地域診断」。公表データからの地域の分析、地域の歴史などを知ることで、この地域に何が必要なのかを考えた結果を地域活動に繋げていきました。在宅医療普及のための講演、多職種連携会の開催、既存の地域コミュニティへの参画や協同など、、この地域で足りていないものを、住民の視点で考えて取り組んでいっているとのことでした。
3.病院がつくるコミュニティスペースの意義を考える -東京・下町での地域活動
3つ目の発表は、東京都台東区の同善病院・同善会クリニックの福井彩香さん。同善病院では、地域に開かれた医療機関を目指して試行錯誤の2年間を経て、地域住民である患者さんからの「病気がなくても来れる病院があるといい」という一言から、地域住民が交流できるスペース(みのるーむ)を開設し、日々さまざまなイベントが開催されているとのことです。
そもそも今の病院と地域は完全に分離されてしまっていますが、同善病院では、病院と地域がつながる仕組みをつくって、社会資源を活用できる場を作ること目指してきました。一部の職員だけで取り組むのではなく、病院全体が賛同した形でこの地域活動を進めていくために、地域活動についての院内職員への啓発活動も非常に重視しているとのことでした。
4.コミュニティ支援室って?!コミュニティホスピタルの未来を支える心臓部
4つ目の発表は、水海道さくら病院と同善病院の両方に関わっている小笠原雅彦医師からの発表でした。小笠原医師からの話では、病院として地域活動を進めていくための組織的に仕掛けである「コミュニティ支援室」が必要であるとのこと。一般的な地域連携室や退院支援室は入院部門の組織内に属する形で置かれていますが、同善病院や水海道さくら病院では、入院・外来・在宅医療部門を上位にあり、病院全体を統合する役目(院内連携)と地域活動する役目(外部連携)を持たせています。そして、これまでの医療では当然のように、医療提供側が提供するサービス(プロダクトアウト)を決めてきましたが、地域のニーズに応える必要があるこれからの医療ではマーケットインの視点が必要であり、その視点を得るためにもこのコミュニティ支援室の存在が必要である、というお話でした。
5.地域と医療が一体化するその未来にあるもの
最後の発表は、当協会の小笠原彩花さんによる発表でした。今後、地域活動を始めたいという医療機関が一歩目を踏み出す一助になればという意図を込めて、これまでの3つの医療機関の地域活動を横断的に分析した結果が報告されました。3つの医療機関のWhy、How、Whatを見たときに、共通しているのは、ある職員個人のニーズから一歩目が踏み出されていることでした。例えば、桜新町アーバンクリニックでは五味先生が在宅医療の現場で感じた「ACP啓発の必要性」から「ACPの講習会を開催した」というアクションをです。そして、その一歩目を踏み出したことで地域住民が「在宅医療やACPの情報を欲している」という地域ニーズに気づけたことで、他の職員も巻き込めて、地域活動として成長していく、、、このような共通の経緯を辿っています。また、このサイクルが回転することで、地域活動によって目指したいと思っているビジョンに近づいていくというものでした。
まとめ
シンポジウムの最後は会場後ろに立ち見ができて、一部の方は入場できない状態でした。同時間帯に行われたシンポジウムの中で参加者の多さは群を抜いていて、コミュニティホスピタルや地域活動といったテーマの関心の高さを感じました。
地域医療はこれからさらに重要になってきます。しかし、地域のニーズは地域ごとに異なります。小笠原先生の話にもありましたが、これまでのプロダクトアウトのサービスから、マーケットインのサービスへの転換が求められていますし、医療機関とそこで働く医療者が地域のニーズを感じるためにも、今回発表したような地域活動の重要性はますます高まっていくのだとあらためて感じるシンポジウムになりました。
ご参加、ご視聴いただきました皆様、ありがとうございました。
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