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第243号(2023年11月13日) ウクライナ人と戦わされるウクライナ人たち



【今週のニュース】ウクライナの国防費がついにGDPの15%に ほか

ウクライナの穀物輸出に回復の兆し

 今年7月にいわゆる「穀物合意」からロシアが離脱したことで、ウクライナの穀物輸出は滞っていた。これに対してウクライナはロシアとの合意によらない形で独自の穀物輸出ルートを模索し、まずドナウ川経由での輸出が行われるようになった。ドナウ川から小型船で第三国へ穀物を運び込み、そこから改めて大型貨物線に積み替えて国際市場に出すという方式であるが、これはいかにも効率が悪い。
 それでもドナウ川経由ルートでは月250万トンもの穀物輸出が行われるに至ったが、積み出し港であるイズマイルがロシア軍の攻撃を受けるなど、これも安全なルートではなくなってしまった。

 そこでウクライナは8月以降、新たな輸出ルートを開拓する。黒海のルーマニアやブルガリア沿岸に設定された安全地帯、「人道航路」を穀物輸出用に使用するという案で、要はロシアとの合意抜きで貨物船を通そうという話である。
 この方式で大体2ヶ月半程の間、穀物輸出が行われてきたが、今のところ成果は悪くないようである。ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相によると、10月のウクライナの穀物輸出量は480万トンと9月より15%増加した。開戦前の月600万トンには及ばないにしても、ロシアの海上封鎖によって穀物輸出が完全に止まってしまうという事態はある程度回避できている。

 他方、ロシアはオデーサ港への攻撃を執拗に続けており、11月10日には鉄鉱石を運ぶ貨物船がロシア機からミサイル攻撃を受けて死者が出た。使用されたミサイルが対レーダーミサイル(Kh-31P?)だったことからして誤射説も出ているが、いずれにしてもロシア軍の海上・航空優勢下では穀物輸出が完全に復活するのは難しいだろう。ウクライナ軍がクリミアへの攻撃を続ける背景には、純軍事的目的や政治的パフォーマンスという側面と共に、穀物輸出のリスク低下(完全に排除できるわけではない)という目的があると思われる。

ロシアとウクライナ双方にのしかかる戦費負担

 ロシア財務省の公表資料をもとに『フィナンシャル・タイムス』が報じたところによると、今年度のロシア連邦予算では支出が当初予定の29兆600億ルーブルから約3兆4000億ルーブル分膨らみ、32兆5000億ルーブル程度になる見込みである。

 増加分の大部分は戦費であろう。実際、2023年度の国防予算は当初予定の4兆9000億ルーブルを大幅にこえて6兆4000億ルーブルほどになったと見られており、2024年度にはこれが(補正前の段階で)10兆8000億ルーブルに達する計画である。

 一方、ウクライナも国防費を猛烈に増やしている。2024年度の国防費は1兆1644億872万8400フリブニャで、実にGDPの15.2%に達するという。ロシアの国防費が膨れ上がったとはいえ、まだGDPの6%程度に収まっているのに対して、ウクライナの方はもう完全に戦時経済である。
 その内訳としては、8620億フリブニャ(全体の74.1%)が人件費で、給与、手当、食料、制服、弾薬、個人用装具などのための費用がここから出る。これに続くのは2654億フリブニャの武器・装備調達費であり、全体の22.8%。これでほぼ全体の97%であり、残りはインフラの運営復旧予算(360億フリブニャ)と国防省の運営費(6億6370万フリブニャ)とされている。


進まないEUの砲弾増産計画と北朝鮮軍需産業の底力

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