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第238号(2023年10月2日) ウクライナのクリミア攻撃とロシアのレジリエンス


【今週のニュース】ロシアが占領地域でも徴兵を実施 ほか

ロシアが地対艦弾道ミサイルの開発を中止との報道

 ロシアの国営通信社TASSは、「ズメーヴィク」の名称で進められていた対艦弾道ミサイルの開発が中止されたという関係者二人の談話を掲載した。これによると、現時点における軍需産業(弾道ミサイル産業に限ってということであろう)は既に飛行しているミサイルの改良のみに注力しているとされ、全くの新規開発は今のところ行っていないとされている。

 なお、「ズメーヴィク」は中国のDF-21Dに類似した対空母機動部隊用弾道ミサイルを目指していたようで、開発元はNPOマシノストロイェーニエ、配備先は海軍の沿岸ロケット部隊になるとみられていた。


ロシアの秋季徴兵 ウクライナ「併合」州でも実施

 9月29日、ロシアのプーチン大統領は2023年度の秋季徴兵に関する大統領令に署名した。10月1日から12月31日までに合計13万人を徴兵するよう命じるものである。

 この徴兵令を何かとセンセーショナルに扱う報道も見られるが、ロシアの徴兵制では徴兵を戦場に送ることを禁じており、教育隊と配属部隊で訓練を受けるだけということになっている。この点は徴兵の実施担当部署である参謀本部組織・動員総局も明確にしており、徴兵対象者が「ロシア連邦の新たな地方」、すなわち昨年強制的に併合したドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソンの部隊に送られることはないとしている。つまり、徴兵と動員は全く違う制度なのでであって、明確に区別されねばならないということである。
 したがって、今回徴兵される13万人も(現時点では)あくまでも将来の動員予備となるべく軍事訓練を受けるために招集されたものという位置付けである。13万人という数も例年と比べて概ね通常の範囲内に収まっている。
 一方、今回の徴兵は、18-27歳を対象とする現行制度の下で実施される最後の徴兵制となる。2024年春に実施される次回以降の徴兵では対象年齢が18-30歳に拡大されるため、一度の徴兵数は現在よりも増えることが予想されるし、場合によっては彼らを志願兵ということにして戦場に送り込める仕組みも盛り込まれた。したがって、今回や次回の徴兵で集められた若者たちが戦場に送られるとすれば来年春以降のことであろう。

 また、今回の徴兵はロシアが占領したウクライナの諸地域でも実施されると報じられている。徴兵を命じる大統領令や参謀本部組織・動員総局の声明はこの点に触れていないのではっきりしないが、TASS通信によると、ロシアの「新しい地域」すなわち昨年秋に強制併合したドネツク、ルハンシク、ザポリージャ、ヘルソンでも徴兵が行われるという。ロシア国防省の公式サイトに載っている声明は実際の記者会見で言われたことの一部を(特に重要な一部を)意図的に落としていることが結構あり、その落ちた分が報道にだけでは載る、というケースもまた少なくないのだが、今回もおそらくそのパターンであると思われる。

 なお、占領地域での徴兵はジュネーヴ条約で禁止されているが、ロシア側の言い分としては「これは占領ではなく、すでにロシアに併合された地域だからいいのだ」ということになろう。もっとも、この言い分を認めればあらゆる占領地域に関する保護規定が無効化してしまうのであるが。さらに言えば、紙に残す分では占領地域で徴兵をやるともやらないともか書かず、しかし実際にはやるらしいぞ、ということは国営通信社に書かせているわけで、これはなかなか巧妙なやり方と言えよう。


【インサイト】ウクライナのクリミア攻撃戦略とロシア軍の兵站能力

相次ぐクリミア半島への攻撃


 ウクライナ軍の反転攻勢はロボティネとベルボヴェの周辺でじわりじわりと進んでいるものの展開は相変わらず極めて遅く、大規模な軍事的ブレイクスルーには至っていません。ということで最近はあまり戦況自体の話をしていなかったのですが、クリミア方面では結構激しい動きが続いていて、それなりにネタが溜まってきたのでまとめて放流したいと思います(全体の構図は以下のインフォグラフィックスがわかりやすい)。

 まずは事態の推移を過去1ヶ月ちょっと分くらいまとめて把握しておきましょう。
 発端となったのは8月23日にタルハンクト岬に対して行われた奇襲上陸作戦で、実行したのはウクライナ国防省情報総局(GUR)であるとされます。この作戦ではネーバ-M及びカスタ-2E2捜索レーダーが破壊され、一時的にクリミア半島西部の監視網に穴を開けることにウクライナ側は成功しました。

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