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第261号(2024年4月8日) ロシア軍需産業のボトルネックは?


【今週のニュース】NATOが「トランプ対策」の1000億ドル基金を検討中 ほか

ヤルスICBMによるパトロールを実施

 4月1日、国営通信社「RIAノーヴォスチ」は、ロシア戦略ロケット部隊(RVSN)のヤルス道路移動型ICBMがアルタイ共和国でパトロールを開始したことを報じた。パトロールを実施したのは「バルナウルのロケット兵団」とされているので、第39ロケット師団のいずれかのロケット連隊による核抑止任務であろう。
「RIAノーヴォスチ」によると、パトロール距離は最大100kmに及び、野外展開地点における技術機器の操作、偽装と防御、対破壊工作員訓練が実施された。

 NATOが「トランプ対策」の1000億ドル基金を検討中

 NATO(北大西洋条約機構)は、「政治的変化」からウクライナ支援予算を守るため、5年間で1000億ドル(約15兆円)の軍事援助資金を確保することを検討している。『フィナンシャル・タイムズ』が5人の外交官の発言として報じた。

 念頭にあるのは、11月の米大統領選でトランプ政権が復活する可能性であろう。まずはNATO外相会合で議論を開始し、7月にワシントンDCで開催されるNATO首脳会合までに合意を目指すとしている。また、この枠組みでは米国の資金拠出は低く抑えられ(NATOへの支出金負担割合と同程度にするとの声もあり)、仮に米国が抜けても残るNATO加盟国分の支出分は守られるとの仕組みも盛り込まれるようだ。
 ただ、議論はまだ始まったばかりで、ウクライナ支援に懐疑的なハンガリーなどの合意が得られるかは不透明である。また、これまでに各国が表明しているウクライナ支援予算がここに算入されるかどうか模様わからないとのことであるから、結局は各国が出している予算を合算しただけ、ということにもなりかねない。5年で1000億ドルということは年平均では200億ドル程度であるから、このくらいなら既に拠出されている額とあまり変わらない可能性もある。

ロシア軍は「完全に再編」された

 米国のカート・キャンベル国務次官は、ロシアの軍事的再編はほぼ完全になされたとの評価を示した。ロシア軍が多大の損失を被っており、再建には一定の時間がかかるという大方の評価とは相反するものだ。

 キャンベルはその具体的な根拠を示していないが、興味深いのは中国が「ロシアの軍需産業の再建を支援し始めている」と述べている点であろう。これも具体的に何を示すのか明らかでないが、工作機械や産業用ソフトウェア、その他のデュアル・ユース技術などの供給を中国が増やしていることを米国は掴んでいるのかもしれない。この懸念は、4月2日に行われた米中電話首脳会談でもバイデン大統領から習近平国家主席に伝達されている。

【インサイト】ロシア軍需産業のボトルネックは?

消耗戦としてのロシア・ウクライナ戦争

 ロシアのウクライナ侵略は既に3年目に入り、長期戦の様相を帯びてきました。以前も書いたように、(どこかで大きな政治決断がなされない限り)この戦争は4年目に入っていくでしょう。とすると、軍事的に優勢を得るのは長引く消耗に耐えた側であろうということが予想されます。

 そこで問題となるのは、消耗戦(attritional war)とはどういう戦争であるかです。アレックス・ヴェルシニンが先月、RUSIに寄せたコメンタリーの冒頭では消耗戦がこんなふうに定義されています。

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