第224号(2023年6月5日)ロシア本土への攻撃 本当のターゲットは米国(かもしれないという話)
【今週のニュース】日本からウクライナ向け砲弾用の火薬を調達?
ロシア 徴兵年齢の変更に関する法案が審議入りへ
第214号で紹介したように、ロシアでは3月に徴兵年齢の変更に関する法案が下院に提出されていた。従来、18-27歳の間とされていた徴兵対象年齢を21-30歳に変更するというもの。移行期間にあたる2024年には対象年齢が19-30歳、2025年には20-30歳となり、最終的には2026年移行、21-30歳に固定することが想定されている。
法案を提出したカルタポロフ下院国防委員長は、6月11日以降の審議開始を目指すとしている。
日本からウクライナ向け砲弾用の火薬を調達?
5月の広島G7サミットにおいては、ウクライナへの軍事援助に関して新たな動きが見られた。F-16戦闘機の供与が本決まりとなったことに加え、それまでは個人防護装備などの提供のみを行ってきた日本が、1/2トントラックや資材運搬車などの車両の提供を決めたことがそれである。韓国も戦闘工兵車両の供与を決定したほか、米国経由で砲弾を提供する方針も検討していると伝えられる。
さらに6月2日にロイター通信が報じたところによると、米国政府は砲弾に充填される爆薬の原料としてトリニトロトルエン(TNT)を日本企業から調達できないか打診しているという。
日本政府側は一切のコメントを拒否しているので詳細ははっきりしないものの、これはあり得そうな話である。第215号で紹介したように、EUはウクライナに100万発の砲弾を供与する方針を固めているが、これにあたっては爆薬の原材料不足がネックになっていると報じられているためだ。
一方、米国政府はこれまでに各種砲弾400万発をウクライナに供与し、さらに砲弾生産能力を月産1万5000発から7万発へと引き上げようとしているが、同じような問題が生じている可能性はあるだろう。
したがって、日本がTNTを供与できればウクライナのアキレス腱である砲弾不足という問題にかなりの影響を与える可能性はある。他方、日本がどれだけTNTを生産できるのかは別問題であろう。
ちょっと検索してみると、日本でTNTを生産しているメーカーは関東化学株式会社、メルク株式会社、富士フイルム和光純薬株式会社の3社とされている。これら3社でどの程度のTNTを生産しているのかはすぐにデータが見つからないが、自衛隊の弾薬備蓄の少なさが度々嘆かれていることを考えるに、どうもそう大量には作っていないのではないか。
実際に米国へのTNT供与が実現するのかどうかを含めて、我が国の安全保障にも直結する問題といえよう。
【インサイト】ウクライナによるロシア本土への攻撃 本当のターゲットは米国(かもしれないという話)
モスクワに飛来したドローンの標的は
5月3日にモスクワのクレムリン宮殿がドローン攻撃を受けたことは記憶に新しいところで、このメルマガの第220号でも大きく取り上げました。
これに続く5月30日には、わかっているだけで8機(最大で25機という説もテレグラムでは流れたが確認できない)のドローンがモスクワに飛来し、落下するという事件が起きて大きな波紋を広げています。
ロシア国防省はこれら全てを電子戦手段と防空システムで撃墜したと主張しており、最終的なターゲットがどこであったのかは明らかでありません。しかし、落下場所をプロットした地図を見るに、そのうちのいくつかはプーチン大統領の公邸や参謀本部の数km以内であり、これらがターゲットであった可能性が考えられるでしょう(初期情報ではブラシハ周辺にも落下したとの情報があり、戦略ロケット部隊司令部を狙ったものとも考えましたが、最新情報では落下地点から除外されています)。
また、興味深いことに、落下したドローンからはKZ-6と呼ばれる爆発装置の破片が発見されたと『メドゥーザ』が報じています。このテの爆発物のデータベースサイトによると、KZ-6は元々NATOが敷設する予定だった核地雷を発見し、除去するための地中貫通型爆破資材としてスペツナズ部隊用に開発されたものらしく、のちに爆破工事などにも使用されるようになったと書かれています。
5月3日のクレムリンに対するドローン攻撃はパッと燃え上がるだけでほとんど損害を与えませんでしたが、今回は実際に建物の壁を突き破って大きな損害をもたらすことを意図していた可能性があります。
誰がやったのか
そこで問題になるのはこうした攻撃を誰が計画し、どうやって実行したのです。
当初、この攻撃に用いられたのはUJ-22というウクライナの国産ドローンであると見られていました。UJ-22を開発したのはウクルジェット社というウクライナ企業で、最大速度は時速160km。遠隔操縦時の行動半径は100kmで、自律飛行する場合は最大800km(こちらは「半径」となっていないので片道飛行時の最大航続距離ということでしょう)とされています。
ところがその後、形状からしてUJ-22ではないのではないかという指摘も出てきました。
実際、高解像度の写真で見ると、モスクワで撮影されたドローンはプロペラ付近に垂直安定板がついていることが確認できますから、UJ-22のような牽引式プロペラ機(機首にプロペラがついている通常のレイアウト)ではなく、推進式(機尾にプロペラがついたタイプ)であることがわかります。映像でもプロペラを後ろにした状態で飛行していることが確認できます。
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