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第274号(2024年7月29日) 進む日欧軍事協力とロシアの出方


【今週のニュース】ロシア軍の戦死者数の実態は? ほか

ウクライナ東部戦線の状況が急速に悪化

 広く報じられているように、ルハンシクからドネツクにかけてのウクライナ東部戦線の状況が急速に悪化している。特に今年2月に陥落させたアウディーウカ西方におけるロシア軍の進撃ペースは早く、プログレス(プロフレス)付近では1日に6kmというかつてない速度でロシア軍が進撃したという。当面の攻略目標は道路網の結節点であるポクロウシクであろう。バフムト西方でもチャシウ・ヤールをめぐる激戦が続く。

 これが予想されていたロシア軍の夏季大攻勢なのか、それとも前哨戦に過ぎないのかは未だ明らかでない。ただ、ウクライナ軍が年内に攻勢に転じられる可能性がほぼないこと、秋には泥濘期が始まることを考えるに、この夏の焦点はウクライナの持久力にあると見てよいだろう。その果てにウクライナが改めて軍事的優勢を背景とした戦争終結を描けるかどうか。これは米国大統領選の趨勢とウクライナ自身の予備戦力造成にかかってこよう(この意味では5月に動員法改正が成立したにもかかわらず、ゼレンシキー政権が大規模動員の再開に取り掛かろうとしていないことは気になる)。

ロシア軍の戦死者数に関する推計

 ロシアの『メディアゾーナ』と英国のBBCは、公開情報から明らかになったロシア軍の戦死者数のデータベースを合同で作成して常時アップデートしている。本号執筆時点で最新のデータは7月19日時点のもので、5万9725人、不確実な分も含めると最大で12万人との推定であった。

 このデータベースはよくできていて、戦死者の出身地方まで網羅されているのだが、同時点で最も多くの戦死者を出したのはバシコルトスタン共和国(2256人)とされている。このほかにはクバン、エカテリンブルグ、タタルスタン、チェリャビンスクあたりがそれぞれ1700-2200人ほどの死者を出しており、全体的に地方出身者が多いことがわかる(モスクワからも1636人の戦死が出ているが、人口比で考えると非常に低い)。
 他方、『エコノミスト』は、以上の推定値に含まれていない二つのファクターを考慮する必要を指摘している。すなわち、ロシアが占領地域で徴募した兵士と、戦死ではないが非常に深刻な重傷を負った兵士である。『エコノミスト』が入手したという米国防当局の推定では、重傷者の割合は戦死者の3-4倍になるといい、従ってロシア軍の人的損失(戦死者と重傷者の合計)は46万2000人から72万8000人であろうとされている。

 ただ、戦死者と重傷者の比率が1:3-4であるというのは、現代の野戦医療に関する標準的な指標である。したがって、以上の数字が米軍独自のインテリジェンスに基づくのか、推定戦死者数を上記の比率に当てはめただけの話であるのかは判然としない。

【インサイト】進む日欧軍事協力とロシアの出方

ドイツ空軍のA400Mに乗る

 今週、北海道に行ってきました。
 といってもあまり優雅な話ではなく、しかも日帰りです。
 以前から懇意にしていたドイツの外交官から「ドイツ空軍が千歳基地に来るんだけど、記念行事に参加しませんか?」とお誘いをいただきました。僕は基本的にインドア派で外国の船とか飛行機が来てもあまり見に行ったりしないのですが、今回はせっかくなのでいっちょ見に行ってみるかな、という気に。というのも、入間基地から千歳基地までドイツ空軍のA400M輸送機に乗せてくれるという上、招待状には「Air to Air Refueling Maneuver」なる文言まであったからです。これはそう滅多にない機会であろうと、朝早くに入間基地に赴きました。
 特に事前ブリーフィングとかはなかったのですが、駐機場に行ってみると A400Mに空中給油ポッドがついています。てっきり一緒に来日したA330MRTTが給油するのかと思っていたのですが、どうも我々の乗るA400M自身が給油機として使われるらしいということがこの時初めてわかりました。
 朝9時ごろ、我々日本側の招待客(政治家や研究者)、自衛隊関係者、ドイツ大使、来日したドイツ空軍総監一行などを乗せて離陸。千歳までは大体2時間半かかりました。結構時間がかかるのは日本海上まで出て例の空中給油デモを行ったためでしょう。
 しかしドイツ空軍は機内の客たちにアナウンスということをほとんどしないので、気づくと窓の外にタイフーン戦闘機が居て、翼下から伸びたドローグホースがレセプターにつながっていました(写真)。

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