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はたらくこと

 休日。めずらしいことに7時に目が覚める。前日の夜に蓮茶を飲み、深く眠れるヒーリングミュージックをかけて寝た影響だろうか。

 深夜帯の仕事をはじめてから、すっかり自律神経が死に絶え体調不良の連続だったが、コロナの影響で就業時間が短くなったことを機に、「自律神経復活キャンペーン」をはじめた。そう、蓮茶とか、ヒーリングミュージック…という、まあ悪あがきである。あと、キウイも食べたり。

 「ヘルシーは好きなことを楽しみながら」というゼスプリ理念は精神衛生に本当に良い。最近は。ほんとうに好きなことをひとりで楽しむ生活をしている。

 コロナ禍は決して歓迎できたものではないし、本来ならば社会で自発的にうまれたらよかったものだけど、いわゆる「働き方改革」。

 コロナ前はだいたい11〜12時間労働で、昼前に起きて即会社いって職場でごはん食べて帰ってストレスでお菓子食べて明け方に寝るという、健康アドバイザーの顔が真っ青になるような生活を送っていた上、ほんとうに「好きなこと」にあてる時間がすくなかった。休みの日だって、だいたいずっと寝ていた。そのうち、情緒が絶え、感情がすぼみ、肌は荒れた。表情はずっとズゥンとしていて、服だってときめきなくとりあえず着られるものを買った。

 それが7時間の労働になって3ヶ月になろうとしてるけど、前みたいに趣味(本を読んだりソシャゲをしたりアニメを見たり)の時間ができたことで、情緒は目を覚まし、感情はふくらみ、いよいよ「何か書きたい」欲まででてきた。すごい、人間の再生。もともと人付き合いは苦手なので、ひとりで過ごすことは苦じゃないし、自宅で好きなことをやりたい放題していたら、肌ツヤもよくなった。ゼスプリ理論、さもありなん。

 とはいえ、わたしは今、たまたま置かれた場所がそうだっただけだ。この先、ぱっと足場を失う可能性だって捨てきれない。あるいは、また元の生活に戻ったりとか。いま、働けるだけ幸せだ、と思う。だけど、人間味がなくなるまで働きたいかといえば、違う。好きなことを楽しむためにお金を稼ぎたいのに、その余裕を失えば本末転倒だ。転職、も頭を過ぎる。以前は、現実から逃げたいだけの欲だったけど、今は違う。

 自分の人生が潤うための、働き方がしたい。

 なんて。まだ世界中先の見えない状況で、甘いことを言ってんなって感じだけど。いまは、目の前にある仕事にちゃんと向き合うことが最善。

…とはいえ、きょうは休みだし。

 せっかくの早起きを無駄にはしないと、本当に(本当〜〜に)久しぶりに渋谷へ行った。気になっていた古着屋を眺め、ワンピースのラックの前でうんうん悩んでいたら店員のお姉さんが声をかけてくれた。

「これとか似合うと思いますよ〜」「あ〜、かわいい。かたちすごい好きです、あ、でもこっちも気になってて」「こっちはベルトしたらよりかわいいと思います!」「あ、その組み合わせ好きです!」「着ます?」「着ます!」

 広い試着室で、深い緑地に白とくすみがかったオレンジの花がおおぶりにプリントされたワンピースを着る。サイズも丈もちょうどいい。でも、やっぱり痩せないとヤバイな〜、と自堕落な生活のツケとして立派になった二の腕を見て唸る。

 ええい、でも、洋服はかわいい!

「夕方から大荒れらしいですね〜」「ですね〜。なんで、午前に買い物しちゃおうと思って」「正解です! わたしはたぶん、アウトなのでがんばって帰ります!」「わ、お気をつけて」「お出口までお持ちしますね」「ありがとうございます。また来ます!」

  二の腕は課題として(それ以外にも腹やら太ももやらふくらはぎやら課題はたくさんあるんだけど)、1着購入。会話はマスク越しだし、レジの前には透明シートがぶらさがっているし、お金も手渡しじゃなくてカルトン置きだけど、それでも、つめたさなんてひとつもない買い物だった。働いている人があたたかいと、マスクもビニールも、なんの隔たりにもならない。

 あたたかく働く人が、報われる社会がいいな。

 雨よけにつつまれた紙袋を揺らして、地元へと戻る。地下鉄構内から地上にあがったら小雨が降っていた。

 できるだけ、ひどくなりませんように。

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