小学生の頃のとある日、親父とぼくは隅田川沿いの公園でキャッチボールをしていた。帰りに、滑り台の前を通りかかると、1学年上の男子児童数人が集まっていた。滑り台の上には、腕を骨折でもしているのか、三角巾で吊っている子が体育座りのような恰好で泣いている。他の児童が下から「早く滑れよ!」と囃し立て、他の奴らは笑っている。
「ちょっと待ってろ」
親父はそう言うと、滑り台の方へゆっくりと歩いていった。ぼくは視線を足元に落とした。しばらくして、チラッと目をやると親父が滑り台の下の児童たちに向かって何かを話している。ぼくは視線をまた足元に戻した。しばらくすると、子供たちはふてくされたような足取りで滑り台から離れていった。
その後、三角市の子は滑り台を下りてきて、親父はその子の手を取って立ち上がらせた。
親父はその子の頭を撫でるとこちらに向かって歩いてきた。
「行くぞ」
ぼくは親父の後ろをついて歩きだした。その日から今日まで親父はずっとぼくのヒーローだった。