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キャリア選択における意思決定の構造を振り返る

はじめまして、 宮脇@catshun_) と申します。この度 Algomatic inc. に機械学習エンジニアとして入社しました。

転職とともにキャリア相談を受ける回数も多くなりましたので、本記事では Algomatic の機械学習エンジニアとしての入社するに至った動機を入社エントリとして紹介いたします。


1. 自己紹介

1.1. Algomatic 以前の経歴

大学時代は TohokuNLP Group で自然言語処理を専攻しており『計算機による知識獲得』をテーマに、述語構造解析・質問応答・マルチモーダル検索などの研究をしていました。

また 株式会社 Studio Ousia 様と Efficient Open-Domain Question Answering (NeurIPS’20) に、TohokuNLP メンバーと 人工知能学会 対話システムシンポジウム (SIG SLUD 2020, 21) にも参加しました。

現在は TohokuNLP 鈴木研究室 の学術研究員として、学生の方々と共に Vision-and-Language、とりわけ視覚情報と言語情報を適切に紐付けた読解、マルチモーダル LLM の頑健性評価 に関する研究に携わっています。

株式会社キーウォーカー には 自然言語処理エンジニア として新卒入社し、チーム内のエンジニアと協働して自然言語処理プラットフォーム SaaS や RAG システムの構築、技術検証などを行なっていました。

また個人として Meetup や勉強会などで LT する機会もあり、いくつか資料も公開しています。

2. 機械学習エンジニアとしてのキャリア選択動機

転職活動中は嬉しいことに魅力的なお声がけをいくつかいただきました。もともと研究開発志望だったこともあり、キャリア選択には胃が痛くなるほど悩みました。

以降では私自身のキャリア選択の動機として、私が大切にしている事理と一致する Algomatic の組織環境について、3 つの転職軸と共に紹介します。

2.1. 市場価値の形成

1 つ目の軸は、その職場で市場価値の形成が実現可能か という観点です。市場価値は時風に依存するというのが前提であるため、ここでは「ロールモデルの共通項としての市場価値」を指すこととし、市場価値を形成する 3 つの観点として、希少性、再現性、市場性 の各項目について紹介します。

  2.1.1. 希少性 ~ Algomatic でしかできないことは何か

事業会社であるにも関わらず、マーケットインとプロダクトアウトのバランスを柔軟に確保しながら 新しい技術に挑戦できる のは Algomatic の特色だと思います。そのため機械学習エンジニアとして 研究および技術領域からの判断基準の提示が強く求められる中で責任ある仕事ができる のは希少性の側面の 1 つかと思います。

また組織における希少性の側面として、Algomatic は大規模言語モデルに関連する各種イベントも主/共催しています。技術的知見が自然と集積されることも魅力の 1 つですが、リーダーシップを発揮するメンバーが能動的に表舞台に出る ことで、組織の牽引、ひいては組織に属する他メンバーの自発的な貢献を促進する要因となっていることも事実かなと思います。

  2.1.2. 再現性 ~ ロールモデルの共通項を私が獲得できるか

本棚いっぱいの学術ノートを残す先輩、毎年のように国際学会で発表する同期や後輩など、これまで数多くの一流の方々を見てきました。彼らの活躍する領域はそれぞれ異なりますが『凡事徹底』という点で共通しています。同時に凡事、すなわち 当たり前のことの要求レベルが高い ことも、私が彼らを尊敬する理由です。

ー 再現可能な凡事に対する要求レベルをいかに上げることができるか。

自発的な変容が前提になりますが、要求レベルの水準が高い環境に身を置くことで凡事徹底をより加速させることができます。弊社には『背中預け』という文化がありますが、個々人の役割に責任が伴うことで、自ずと凡事に対する要求レベルが底上げされた環境で働くことができる のかなと感じています。

  2.1.3. 市場性 ~ 長期目標に対して何に自己投資するか

市場価値は時風に依存するという前提ですが、知識労働者である限り生産手段は知識や情報になります。機械学習エンジニアに関連する知識体系として分かりやすいのが DS協会が公開する 650 項目の スキルチェックリスト ですが、私の場合は疎なチェックリストが出来上がるだけで残りの項目数に呆然としてしまいます。

短期的なキャリア選択の指針としてファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略を採用する

ファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略は、企業のブランディング戦略に関する話ですが、セルフブランディングにおける選択と集中においても個人的に大切にしたい考え方の 1 つです。

あらゆるビジネスに共通する5つの要素 ― 価格・商品・アクセス・サービス・経験価値 ― から自社を見つめ直し、市場において独自のポジションを築く戦略。5つの要素の達成レベルにおいて、1つの要素を 市場支配 のレベルに、1つの要素を 競合優位 なレベルに、残り3つの要素を 業界水準 レベルに置くことで独自のポジションを築く。

私の目指すロールモデルはフルスタックエンジニアが近いと認識しているので、将来的にこうありたいという理想のスキルセット(e.g. 機械学習, バックエンド, フロントエンド, etc...)を選択し、現時点で私が持ち合わせるスキルセットと照合することで直近投資すべき領域を決定するようにしています。

Algomatic で働くメンバーには「デザインに困ったらこの人、フロントエンドだったらこの人」という役割に基づく明確なアイデンティティが存在します。私の場合は機械学習という領域に軸足を置きつつ、他の領域においては明確なロールモデルが在籍するため、私の目指すフルスタックのロールモデルに近づく最短経路だと思ったのが、私が Algomatic の機械学習エンジニアというキャリアを選択した理由です。

2.2. 組織効力感

キャリア選択の 2 つ目の軸は「どんな組織で誰と働くか」という点です。

組織効力感と高い共起を示す言葉として自己効力感があります。(自己統制的)自己効力感 とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると自分の可能性を認知している感情、すなわち 自分ならできる・自分が踏み込んで良い というチャレンジ精神に起因する感情です。他方で 組織効力感 とは 組織に属する一人ひとりの自己効力感の相互作用によって、組織全体が目標を達成できる・成功できると認知している 感情を指します。

私自身は組織心理学等に詳しくないため、以降の内容も危険な思い込みが含まれる可能性があります。株式会社Momenter 坂井さんが PIVOT にて素晴らしい言語化をされているので、ぜひこちらも併せてご覧ください。

ここでは動画内で言及される組織効力感における 3 要素として、自立性、自己効力感、組織支援感 について Algomatic の組織環境と共に紹介します。

  2.2.1. 自立性

Algomatic の文化に『背中預け』というものがあります。上司が持つ権限の一部を部下に任せる権限委譲とは異なり、個人のプロフェッショナルな職能を最大限発揮するために、個人の自立性を信じて託す という文化です。

もちろん役割に関係なく全てのメンバーがリーダーシップを発揮することや、孤立しないための組織支援感への働きかけが前提です。前述しましたが、背中預けという文化によって個々人の役割に責任が伴う ため、自ずと凡事に対する要求レベルが底上げされます。

自立性が尊重される文化だからこそ、そこから生まれる他メンバーへの尊敬や自身の柔軟性が Algomatic の組織効力を発生させる要因の 1 つかもしれません。

  2.2.2. 自己効力感

自己効力感は「自分が踏み込んで良い」というチャレンジ精神に起因する感情です。自己効力感における先行要因のうち 達成経験、言語的説得 を取り上げて実体験と共に Algomatic の組織環境について紹介します。

  2.2.2.1. 達成経験

達成経験とは 再現可能な体験を積み重ねることで得られる経験 です。売り上げやリード獲得数などが強調されやすいですが、再現可能な体験は日常的に発生するものです。以下の記事では経験学習という枠組みを紹介しましたが、素通りしてしまうな行動事実や失敗を言語化して再定義すること も、再現可能な体験の積み重ねに対する重要な行いです。

後述しますが、Algomatic では機密情報を除くほぼ全てのコミュニケーションがオープンになっていることで他メンバーの活動が見えやすくなっており、他己紹介による行動事実の再定義も頻繁に行われています。

slack での一コマ。他己紹介による達成体験が得られた例(ありがたい!)。

  2.2.2.2. 言語的説得

言語的説得とは 組織が個人の社会的役割を言語化して伝える行為 です。キャリア選択には大変悩みましたが決め手の 1 つに「私が Algomatic で活躍できるイメージを時間をかけて一緒に形成してくれた」ことがあります。

また言語的説得は自己効力感の先行要因であると同時に、組織間の流暢なコミュニケーションを確立し、知識労働の生産性を高める 側面があると思います。

これは一般論ですが、上司と部下(ないしは組織と個人)の関係において流暢なコミュニケーションが確立されない理由として、部下は上司が言うことではなく自分が期待している返答内容に耳を傾ける ため、という言説があります。言語的説得は部下の貢献について上司が言及するため、部下は「自分はどのような貢献を期待されるべきか」考えるようになり、同時に上司には部下が考える貢献についてその有効性を判断する権限と責任が生じます。

流暢なコミュニケーションの前段には、こうした上司と部下(組織と個人)における貢献についての言語的説得が必要であるといえます。前項では Algomatic における『背中預け』という文化について前述しましたが、個人に対する貢献を明確にすることも組織効力を発生させる要因の 1 つかもしれません。

  2.2.3. 組織支援感

組織支援感とは、個人による職能の発展を支援する機会を組織が与えてくれているという個人の知覚 です。例えば「君のスキルを活かして 〇〇 を推進して欲しい」という言語的説得があっても、組織からの支援やセカンドペンギンの存在がないと聞き手に 孤独感 が生じてしまいます。

Algomatic において前述した『背中預け』という文化が実現可能なのは、前提として 組織支援感の定着 があるためと感じます。組織内で情報がオープンになっている故に誰もが口出し可能であり、また経営陣をはじめリーダーシップを発揮する各メンバーはエンジニアが多く、マネジメントスキルが高いのも定着要因の 1 つかと思います。

各メンバーがエンジニアでありマネジメントスキルが高いとは、状況に応じたポジション取りに長けたエンジニアが多い という意味です。「どんどんやっていこう!」という気風の強いチームでは敢えて批判を入れたり、逆にプロジェクトが前に進まないチームにおいては自らが積極的に手を動かして意思決定を下せることが、客観的に見た Algomatic の強みかと思います。

コルブの学習スタイルの 9 分類。チームメンバー学習スタイルを把握して、自らが柔軟に学習スタイルを変更することでバランスの取れた組織が生まれる。例えば検討型メンバーが多い場合は、自らが行動型のポジションを取ることでバランスが取れる。

2.3. 内発的動機づけ

キャリア選定における 3 つ目の軸は内発的動機づけです。内発的動機づけは外部報酬に依存しない、好奇心や探求心、向上心などの内面的なモチベーションを持続させる機能 です。

  2.3.1. 現在の大規模言語モデルに対するワクワク感

大学時代に参戦した人工知能学会 対話システムシンポジウム (SLUD'20, 21) では、((開発当初は)) 大規模な雑談対話システムを構築しました。とはいえ、モデルパラメータ数は 480M(BERT-Large は 340M)なので GPT-3 の 175B に比べるとかなり小規模です。

SLUD 2021 雑談対話コンペでの対話の様子。当時は自然性・話題追随・話題提供の 3 つの観点で LINE HyperCLOVA, NTT CS に続く高性能なシステムとして優秀賞に評価されました。

当時の対話例を上図に載せてみました。GPT-3 や BlenderBot など以前から言語生成器はいくつかありましたが、私のなかでの対話システムはこのような応答イメージと強く紐づいていたため、ChatGPT が公開された当時は自然かつ柔軟な追従性に、対話システムを構築した実体験とのギャップを感じ 大変驚きました。

GPT-3 や CodeX の公開から今日まで大規模言語モデルの世界知識および柔軟な推論能力を活用する枠組みが数多く研究されてきました。なかでも言語生成時にツールの実行を伴う ToolFormer や ReAct の論文を初めて読んだ際は、推論過程が事前に決定された従来の Retrieval Augmented LM とは異なり「ツールの実行タイミングを言語モデルが判定する」という自律的な枠組み に面白さを感じました。

現在は指示チューニングや RLHF などの新しい学習方法を適用した GPT-4, Gemini などの言語モデルや ~70B のローカル LLM が簡単に利用可能で、LangChain や LiteLLM のようなライブラリも整備されつつあります。

Algomatic には研究やプロダクトにおける最新動向にアンテナを張るメンバーが多く在籍しています。技術や知識のコモディティ化が進む現在、彼らとともに顧客課題の解決に向けた施策に取り組むことができる のは、私個人として大変嬉しく思います。

  2.3.2. 情報収集/発信とコンテキストシェア

Algomatic には最新技術動向に関心を持つメンバーが多く在籍しており slack やオフラインによる議論が日々活発に行われています。その背景には機密情報を除き情報がオープンになっていること、技術的な挑戦を素早く検証できる環境にあることなどが誘因となっているかと思います。

Algomatic の slack アナリティクス。例えばメッセージ数が 1,238 であるチャンネルでは、月 20 営業日とすると 1 日あたり 62 件の投稿が発生していることから、日頃から slack が活発に稼働していることが分かる。

また機密情報にアクセスする場合を除きコミュニケーションがオープンであり、各メンバーが slack で大声で作業している(Working Out Loud)ことも Algomatic の特徴的な側面かと思います。事業における意思決定の背景に加えて、具体的な意思決定に繋がらない単なる思いつきを垂れ流しているメンバーが多く、誰でも事業の背景情報や個々の価値観にアクセスできる のは私が感じる魅力の 1 つです。

  2.3.3. コミュニケーションのプロトコルに対する凡事徹底

リモートワークが普及した今日において、コミュニケーション(とりわけテキストコミュニケーション)は凡事徹底したい内発的動機づけの 1 つです。

特にエンジニアの文脈では、技術的な質問や GitHub PR などを構造化して伝えたり、設計書等を曖昧性のない文章で記述したりなど テクニカルライティング が必要とされる場面が多くあります。1 つをとると些末な問題ですが、こうした配慮を当たり前にすることは伝達漏れ等によるデモチを防ぐことに繋がるかと思います。

  2.3.4. 人へのこだわり

以下の podcast では弊社 CEO の大野と CoS の大田が「Algomatic における人へのこだわり」という観点について言及しています。

Algomatic の全社的な思想として、多少の犠牲を払ってでも短期的な成功を目指すというよりも、人生という長いスパンをかけて大きな会社をつくる という挑戦を重視する思想が根付いていると思います。人生はプライベート含めて色々なイベントがあるため、仕事も家庭も両方幸せにする ことを目的に、お互いフォローし合える関係性を築くことが重要になります。

転職活動中に私がスタートアップに対するパートナー視点の不安を吐露したところ「ぜひパートナーと三者面談しましょう」と言ってくれたことがありました。実際に三者面談はしませんでしたが、ステークホルダーである社員の家族まで幸せにするという意識 が表面化されていて素敵だなと感じました。

3. 機械学習エンジニアとしての私の役割

3.1. LLM STUDIO での立ちまわり

私は LLM STUDIO というカンパニーに属しており、大規模言語モデルを活用した事業展開を進めるエンジニア の一人として活動しています。

LLM STUDIO の機械学習エンジニアである私の役割は、カンパニーが抱える技術課題を機械学習チームとして実現可能か判断し、組織内メンバーを巻き込んで技術戦略の策定に適切な判断材料を提供すること になります。また技術検証によって蓄積された知見の共有もカンパニー横断的に行なっていきます。

事業開発にはプロダクトアウトとマーケットインの均衡を図り、試行回数×打率を上げていくことが重要です。機械学習エンジニアとして特に意識するのはプロダクトアウトという試行回数の側面 で、研究動向の情報収集や、技術検証の試行回数を上げることで技術リスクを下げ、CPF, PSF, SPF に全力を注ぐことが私の直近のミッションになります。

3.2. 顧客課題の解決に向けて

弊社は生成AI事業を推進していますが、同時に「生成AIで何でも解決できるのか?」という懐疑的な視点を持つことは常に自問しています。生成AIは手段の 1 つであり、目的は顧客課題の解決です。顧客課題の解決のために適切な判断材料を提供するのも私の役割だと認識しています。

3.3. 便座除菌クリーナーのようなプロダクトをつくる

便座除菌クリーナーを使ったことがある方は多いと思います。クリーナーにペーパーを押し当てると除菌液が噴出するあれです。多くの人を幸せにする素晴らしいプロダクトだと思います。

主なステークホルダーは、トイレ利用者、清掃員・清掃会社、トイレ管理会社、クリーナー開発者・販売会社でしょうか。

トイレ利用者(ユーザ) は、便座除菌クリーナーを使用するか否かの選択権を持っています。便座を拭くという行為に多少の労力はかかりますが、トイレ利用者にとっては「自分が気持ちよくトイレを利用する」という目的において「クリーナーを使用する」手段の利便性が労力(コスト)を上回ることで多くの利用者は自然にクリーナーを使用しています。便座除菌クリーナーの導入によって 清掃員・清掃会社(既存事業者)のプロフェッショナルな職能を活かす場を損失するということはなく、清掃員は便座が綺麗な状態で掃除を行うことができます。また トイレ管理会社(導入者) にとっても、トイレ利用者によって便座が綺麗な状態に維持されるので、誰もが気持ちよく利用できる場所を管理・提供することになります。

—— 現在の大規模言語モデルを用いたプロダクトはどうか?

大規模言語モデルを用いたプロダクトは物的生産性を加速させる側面がある一方で、これまで丁寧に文章を綴られてきた方々によって積み重ねられてきたデータから学習されている ことも事実です。

そのためプロダクト設計の一端を担う者として、彼らのプロフェッショナルな職能の機会損失、同時に自然言語処理の技術衰退を生じない設計を心がけていきたいと思っています。

4. おわりに

本記事では入社エントリとして、機械学習エンジニアとしての入社動機、エンジニア視点から見た Algomatic について紹介しました。

Algomatic のポジティブな側面を多く記述してしまいましたが、現状舗装されていない箇所も多くあります。株式会社植松電機の 植松さん思うは招く」から言葉を借りると「ただいま成長中」の企業です。

時代を代表する企業をつくりたい方、カジュアル面談もやっているのでぜひお話しましょう!

他メンバーが投稿した入社エントリもぜひご覧ください!

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