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ICHASU個展『めのめのめ』の作品のこと
みなさんこんにちは。CAT'S FOREHEADの森です。
今回はアートワークストアで販売しているICHASU(イチャス)の作品の中から、個展『めのめのめ』の作品についてお届けしたいと思います。
当ストアでは個展『めのめのめ』に展示された作品をテーマカテゴリとしてまとめています。
すでにICHASU本人が『めのめのめ』について解説している動画を公開しているのですが、本稿ではこの動画をダイジェスト的にまとめつつ、動画ではお伝えできなかった私見も交えて参ります。
上のサムネの右上にいるのがICHASU。
彼女のインスタ(個人のアカウントのほう)では駄菓子を食べたり村上ショージを愛でたりと、おちゃらけた自撮りがひょうきんで可愛いのですが、絵の発想力と描く技術力には静かな凄みを感じさせる才能溢れる作家です。
「なにがどう凄いのか?」を書き始めると長くなりそうだし、彼女のポートレートムービーを制作している途中なのでそれはまた別の機会に。
でもこの動画をご覧になっただけでも、彼女の愛嬌ある人柄と絵に対する真摯な姿勢、そして技法に対する確かな自信が伝わるのではないでしょうか。
テーマは「錯視・騙し絵」
ICHASUはほぼ毎年開催する個展に、自らテーマを設定して臨んでいます。
そのテーマは絵の内容だったり技法だったりしますが、常に「過去の自分を超えたい」と強く希求する内なる熱源に突き動かされるがゆえに、自分の現状では超えられない(超え方がわからない)ような高さにハードルを設定しがちなため、開催直前まで葛藤と悪戦苦闘を繰り返しています。(それがこの解説動画のエンディングで「重荷の繰り返しですね」と語る伏線となっています)
やがて完成して個展で披露される作品は、画面の隅々までテンションが張り詰めた構図と、小さなモチーフの末端まで丁寧に描かれたことによる圧倒的な質量を纏って展示されています。
ところがICHASU本人は、そのプロセスをほとんど表に出しません。
「絵は理屈抜きで鑑賞者に何かを感じてもらえれば良いし、テーマを設定しているのは自分が新しく絵を描く理由を求めているから」と考えているからでしょう。
とはいえ展示会場で本人に話を聞けば、そうしたことをちゃんと語ってくれるはずです。あくまで不特定多数に向けて絵よりも努力をアピールしたいわけじゃないというだけで。
前置きが長くなりました。
ICHASUが個展『めのめのめ』のテーマとしたのは「錯視・騙し絵」です。
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随分と昔から「そう言えばこれも好きだったな」と気になっていたようです。『めのめのめ』の「め」は「目」なんですね。
このタイトルを聞いて私はすぐに(ICHASUの母校の大先輩である)アーティスト 村上隆氏の博士論文タイトル「意味の無意味の意味*」を思い出したのですが、ICHASUによると全く関連はないそうです。
*正式タイトルは「美術における「意味の無意味の意味」をめぐって : アウラの捏造を考察する」
展示作品について
本個展は3種類の作品群で構成されています。
1つめが個展タイトルと同じ名前が冠された作品。
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R,G,Bの3点で構成される連作。
![](https://assets.st-note.com/img/1682051202036-zWgrCx9Xbm.jpg?width=1200)
左から右に展開する6点で構成される連作。
![](https://assets.st-note.com/img/1682051359981-1za0wPRWR0.jpg?width=1200)
『めのめのめ』
![](https://assets.st-note.com/img/1682065692410-KzQ51yqVFR.jpg?width=1200)
様々な角度から撮影した動画はこちら。
本作の背景に使用されている、歪みながらぐるぐると渦巻く模様を描きたくて描いた作品だそうです。
![](https://assets.st-note.com/img/1682052954488-B7uoVtAlLi.jpg?width=1200)
中央の消失点へと続く空間に浮かんだ不思議なフォルムのキャラクター。
背景のグニャグニャしたラインと、キャラクターの体表(?)の模様が同じひとつのラインで構成されていることにお気づきでしょうか。
このラインのギミックと、カラフルだけどICHASUにしては淡い色調のせいか、このキャラクターのラインも構図もビシッと決まっているのに、距離感や存在が不安定な気がしてジワジワと混乱してきます。これもICHASUが仕掛けた「錯視」のせいでしょう。
弊社のスタッフ(三半規管が弱め)が個展会場でこの作品を観たときに「め、目が回るうぅ」とクラクラしていたのですが、まさにそれが狙いだったようです。
![](https://assets.st-note.com/img/1682052977198-UY4SAiB7wl.jpg?width=1200)
私はこの作品の中で、キャラクターの下側三分の一くらいから色が変わっていることにICHASUの凄みを感じました。
![](https://assets.st-note.com/img/1682053106347-01o1JFRk7M.jpg?width=1200)
ここだけグラデーションが使用され、しかも背景色に近い色をチョイス。
溶けてくよ〜
作品は意外と小ぶりです。
ご自宅の壁に「引き込まれる空間」を設置してみてはいかがでしょうか?
![](https://assets.st-note.com/img/1682053162008-FoH7XipDKr.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1682053196922-AYH0XcIQY5.jpg?width=1200)
RGB3連作
同じ線画の絵をRGBの3色で表現した連作です。
一辺が約65cmの正方形のキャンバスを90度回転させた菱形、ということは天地が約92cmあるので、色面の強さと相まってかなり迫力がある作品です。
様々な角度から撮影した動画はこちら。(各作品すべてのページに同様の動画を用意しています)
「(鑑賞者の)目をチカチカさせる」ものの象徴が「光」だと思っていたので光の三原色(RGB)を並べる。同時に「極限まで要素を減らして描いてみよう」というのがこの連作のテーマだそうです。確かにアウトラインも色数も、ICHASUの作品の中ではかなりシンプルなものとなっています。
中央のキャラクターはICHASUが以前制作したキャラクターを描き直したものですが、陰影をあらわすために不規則に描かれた反射光と影のタッチが今までのICHASUには珍しい表現方法です。まるで柔らかなメタリックの風船のようですね。
アウトラインは3作とも共通ですが、この陰影の表現は作品ごとに微妙に異なっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1682062362917-xLUXirdWG4.jpg?width=1200)
横展開の6連作
左から右へと展開していく連作です。
平原〜森〜水辺と、それぞれ2作品ずつ。
絵が横に長く展開していくのは日本古来の巻物のようですが、巻物は右から左に時間軸が進みます。左から右に進むのはスーパーマリオブラザーズのような横スクロールのゲームを想起させますね。
![](https://assets.st-note.com/img/1682063479918-fF2jqi9j1t.jpg?width=1200)
巻物も横スクロールのゲームも日本で発展した文化ですよね。
ICHASUの作品をパッと見てまず目に飛び込んでくるキャラクターの造形や色使いはアメリカのヴィジュアルカルチャーの影響を感じさせつつも、その根底はどっしりと日本の文化が支えている。それがICHASUのスタイルの大きなポイントだと思います。
この連作でも非常にフラットで簡略化された背景は村上隆氏が2000年に提唱した『スーパーフラット』の枠組みを想起させますし(Wikipedia)、枝のモチーフなどは浮世絵から拝借しているものもあるようです。
リングリング
![](https://assets.st-note.com/img/1682064760027-gVs89Lk3tL.jpg?width=1200)
ICHASUが仕掛けた錯視の要素がちりばめられた作品です。
まず画面の大部分を構成する太いアウトラインの大きなキャラクター。
実は線を辿っていくと足と身体が繋がっていません。
![](https://assets.st-note.com/img/1682065255959-kDc6D69enX.jpg?width=1200)
枝との奥行きの関係も実際には存在し得ない配置になっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1682065397209-JXYXAxjUlN.jpg?width=1200)
赤で囲った部分が『リングリング』。このキャラクターも下半身が現実では存在し得ない状態に捻れています。「不可能図形」と呼ばれるものですね(Wikipedia)。
![](https://assets.st-note.com/img/1682064389700-HH0dSMo4EJ.jpg?width=1200)
ワンFACE
![](https://assets.st-note.com/img/1682065890056-6ThHilxMq5.jpg?width=1200)
「色んなモチーフがあるけど、よく見たら(あるいは目を細めてぼんやり観たら)顔に見える」ものを作りたかったそうです。
本作はタイトル通り犬の顔。
背景の淡い色はICHASUの作品には珍しいチョイスですが、このトーンとシンプルさのお陰でフラットながら画面に奥行きを感じさせます。
一方でシャドウ部を表現する細やかな描き込みの部分。
![](https://assets.st-note.com/img/1682066349531-TCkIVSvlfn.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1682066436110-EQnIqNCD3P.jpg?width=1200)
シャシャッと描いているように見えて、原画に近づいてみると丹念な筆遣いがわかります。
こういうところにICHASUの作品の質量を感じるんですよね。
レオパンダ
![](https://assets.st-note.com/img/1682067025139-26lPlneket.jpg?width=1200)
この作品から森に入ります。画面が少し暗くなりました。
![](https://assets.st-note.com/img/1682067149749-mxMvDjzSsg.jpg?width=1200)
ここでも奥にあって簡略化された木々がキャラクターの手前に来ていたり。
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顔もいっぱい。だけどメインのキャラクターの顔の表面はフラットでありながら円筒形のような立体感もあり・・・。見れば見るほど視点の前後関係が危うくなってきませんか。
![](https://assets.st-note.com/img/1682067284389-MjALFZFaKT.jpg?width=1200)
ニャンFACE
![](https://assets.st-note.com/img/1682067429040-xy3uac5wXG.jpg?width=1200)
先程の『ワンFACE』と呼応するように猫の顔がモチーフとなっています。
唐突にあらわれたヒモが猫の上唇を形成しています。
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目の部分はオバケだそうですよ。
![](https://assets.st-note.com/img/1682067834134-xIoInHrBuM.jpg?width=1200)
ヒモ犬
![](https://assets.st-note.com/img/1682068047781-RFsOHyuJtb.jpg?width=1200)
ヒモでできた犬。ここから水辺に入ります。
ICHASUの作品には「ヒモ」がたびたび登場します。例えば『string』シリーズはその名の通り「ヒモ」で構成された作品シリーズですが、それはまた別の機会に。
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犬を構成するヒモの奥行きと着色が、現実にはあり得ない「錯視」の状態ですが、本作の中心はなんといっても青い柳。不自然なまでに均等に並べられつつ、いつのまにかキャラクターの足となって収まっています。
「ヒモ」と「柳」という柔らなモチーフが右側の海に向かってにユラッと倒れそうな少し不安定なバランスで組み合わさっていますが、画面ギリギリに配置された樹がしっかりと受け止めていますね。キマってます。
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この線と塗りの美しさを堪能していただきたい。
ピースピース
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いよいよ連作を締めくくる作品です。
「ヒモ」を始めとした「モチーフが顔に」なっています。
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カエルのようなメインのキャラクターのヒゲが、船を漕ぐキャラクターの強調線のようにも見える。これも「騙し絵」のような感覚に。
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さいごに
長くなりましたが「錯視・騙し絵」をテーマに制作されたICHASUの『めのめのめ』の作品をご覧いただきました。
RGBの3連作も横展開の6連作も「連作」ではありますが、その中から1枚をお選びいただいてもじゅうぶん鑑賞と所有に値する作品ばかりです。
でももし連作をまとめて掲示できるスペースをお持ちで、まだ作品がまとめて入手できるようでしたら連作コンプリートすることも検討されてはいかがでしょうか。様々な人が集まるパブリックスペースでも、オフィスのようなプライベートな空間でも、強い存在感を放つ作品達がそこに集う人々に何かを伝えてくれるでしょうから。
![](https://assets.st-note.com/img/1682072090149-Uqc1m4QqTp.jpg?width=1200)
もし本稿を通じてICHASUと作品に興味を持っていただけたら、ぜひ本編の動画もご覧ください。そして今後開催されるICHASUの個展にも足をお運びいただけると私もとても嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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