見出し画像

あの日のゴールデンレトリバー

「あの子のコミュ力、凄いよね」

かつて、別フロアの同年代の同僚にそう言われたことがある。
そんな自覚は全く無いが、なかなか人を褒めない人だからそう言われて嬉しかったのを鮮明に覚えている。
自分ではどちらかと言うと人見知りだと思っていたが、そうではなかったらしい。
意外や意外、周りから見ると真逆に見えるようだ。



わたしは、人に感謝と好意を伝えることを厭わない。
部下にも伝える。友達にも伝える。先輩にも同僚にも後輩にも上司にも。

自分が一杯一杯になればなるほど、その傾向が強くなる気がする。
老若男女問わずサラッと人を口説き始めるのだ。
我ながら何が恐ろしいって、全部本音で話していることである。

つまり。
此処数ヶ月ほど山積みの仕事に追われてきたわたしは、現在ほぼ全開で人タラシ状態だった。
目に付き、言葉を交わした相手に端から感謝を伝え、褒め殺す。

先週は電話先の昔からお世話になっている取引先のお姉様を「尊敬してます! 毎回お話する度に凄いなぁって思ってます。いつもありがとうございます。」と口説いていた。

今週は別のお姉様からお電話をいただき、「いつもお気遣いいただきありがとうございますー! ○○さんのお陰でいつも本当に助かってます!」とニコニコと伝えていた。

つい昨日は、同僚の元を訪ねてきた取引先の方が「いつもの子は今日はいないの?」と聞いてきた言葉がお昼休み中のわたしの耳に入ってきた為、フラッと顔を出した末「お久し振りです! お顔拝見出来て嬉しいですー!」とサラッと言い放っていた。

今日はBちゃんが「ねこのさん、ご指名です」と回してくれたわたし宛の別部署からの電話に、「ご指名いただきましたねこのですー!」と言いながら出ていた。尚、相手は爆笑していたので何も問題はない。

他にも、自覚が無いだけで数人口説いているかも知れない。

…そんなわたしを化け物を見る様な目で部下が見ていた気がする。
気の所為だと思いたい。



そういえば、大昔、高校生の頃。
同じ部活の後輩は「先輩って大型犬みたいっすよね」と言っていた。
物心ついた頃からずっと猫派のわたしは「猫の方がいいなぁ」と言った気がする。

「大型犬って言うか、ゴールデンレトリバーみたいっすよね。
呼ぶと尻尾振ってニコニコ迎えてくれるような。」

今思い返せば最高の褒め言葉だと思う。
そして、その言葉を思い出として覚えているということは、当時のわたしも嬉しかったのだろう。

-あんなに可愛くない返事じゃなくて、今なら笑顔で「ありがとう」って言うのにな。

しかし、可愛くない返事をするわたしの後ろでしっぽが嬉しそうに揺れているのが、後輩にはきっと見えていたに違いないと信じている。


後輩よ。君が褒めてくれたゴールデンレトリバーは順調に育ったようで、今も愛想を尽かさずにわたしの側に居てくれている。
たまにタラシのようになっているけど。
わたしはこの大型犬を一生手放さず大事にしていこうと思う。

この記事が参加している募集

#部活の思い出

5,458件

#私は私のここがすき

15,660件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?