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ニャリーポッターと3番目の猫

わたしは4匹の猫と暮らしている。

一番仲良しなのは上から3番目の猫だ。
彼女は出勤時のお見送りと帰宅時のお出迎えはほぼ必ずしてくれるし、わたしがお風呂に入れば付いてくる。
ゴロゴロと喉を鳴らして甘えてくるし、抱っこすれば嬉しそうに目を細めてグリグリ頬擦りしてくれる。
なんなら、抱っこして欲しい時には「んんんんんっ」と鳴きながら肩まで登ってくることもある。
視線を感じて視線を上げれば、彼女と鏡越しに目が合い、そのままお互いゆっくり瞬きし「大好きだよ」と伝え合う。
大変可愛い。可愛すぎてもうずっと一緒に居てほしい。

そんな3番目と一番歳が近いのは4番目の末猫だ。
よく2匹で戯れあい、飛び回っている。
お互い威嚇はしないから、体力が続く限りの本気の追いかけっこと戯れあいを楽しんでいるようだ。
ダダダダダっと駆け回り、机に飛び乗り-「痛っ」-そしてそこに居た人の頭を飛び石がわりに蹴り上げ飛び回る。



最近は朝から運動会が開かれていることが多い。

その日も朝から3番目と末猫による大運動会が開催されていた。

朝、わたしは目を覚ました後に必ず布団の上で10分ほどアイピローをする。
そのアイピロータイムのわたしの耳に猫たちが駆け回る足音が届く。何気ない朝の時間。

次の瞬間、わたしの顔の上にあったアイピローが吹っ飛んだ。

何が起きたのかわからなかった。
目を閉じたままであったが、右の額のあたりにフワフワとした感触を感じた。

猫の腹毛だ。この質感は…3番目だな。

3番目の猫は寝ていようが何だろうが、わたしの上を容赦なく踏み、駆け抜けて行く。
というか、猫たちは一番上の子以外は大体わたしを踏み付けていくし、上からわたしの腹の上にダイブしてくることすらある。油断も隙もあったものじゃない。

そんなことを悠長に考えていたのは一瞬で、額に猫のお腹の感触を感じた次の瞬間には彼女はわたしの額を踏み切り板代わりに蹴り上げて飛び上がっていた。

「〜〜〜〜〜っうぅ…」

猫の後ろ足のバネは強い。結構な衝撃がわたしを襲った。
布団に横たわったまま頭を蹴り上げられ、わたしは悶えた。
そして、なんかジンジンする。
3番目の後ろ足の爪は最近伸びていた。たぶん跳び上がった際に思いっきり爪を出して飛んだのだろう。少し掻かれたに違いない。
追撃が無いことを確認し、わたしは取り敢えず再びアイピロータイムに戻った。

-------

「ひええええぇえ…」

鏡の前で髪を結い上げる際に、ふと思い出して前髪を搔き上げてみた。
右の額から頭頂部に向けて赤黒い一本の傷が走っていた。
髪の毛の生えている部分にも赤黒い血の跡が瘡蓋になりかけて残っている。少し掻かれたとは思ったが、少しどころではなかった。ざっくりやられている。

-待って。思ったよりえぐいんですけど?

振り返れば3番目の猫は運動会を終え、満足そうに丸くなっている。
「ちょっとこれ!」と彼女に見せに行けば、状況がわかっているのか否か親友猫は目を細めて傷口にスリスリと頬擦りしてきた。…くっ。可愛い。こんなの許してしまう。

家族の目撃談に寄れば、「最初は3番目が末猫に追いかけられていたが、最終的には末猫が3番目に追い詰められ、隠れ家ごとたーしたーしと叩かれていた」とのことだ。
つまり、わたしの頭を蹴り飛ばした際の3番目は必死に末猫から逃げていた、ということらしい。

-…目じゃなくて良かったなぁああぁあ! 本当にもう!!!!

アイピローを吹っ飛ばされた後だったし、最悪わたしの目が大惨事だった可能性もある。
あわや救急車を呼ぶ羽目になる所であった。そうなったら出社するどころでは無い。
眼帯で生活する羽目になる。
わたしは今無事で居る奇跡に改めて感謝しつつ、家を後にした。


出社して暫くは普通に仕事をしていたが、昼前にふと朝のことを思い出したわたしは同フロアの同僚たちと部下のBちゃんに話のネタとして提供してみた。
前髪を掻き上げ、額の傷を見せる。

「待って! ねこのさんこれ絶対痛いやつ!!!!」

「ちょっと近くで見ていい?」とわたしの頭を覗き込んだ同フロアの同僚のお姉様が「本当に頭の中までぎぎってなってる…」と呟く。

「これ絶対洗顔のとき痛いでしょ…」

お姉様の言葉に「っていうか、たぶんシャンプーめっちゃ滲みると思うんですよね…」と返答しながら、入浴タイムの痛みを想像してしまい、思わずわたしの眉が下がる。

「ハリーポッターに張ると思うのよね、この傷。」

と部下のBちゃんに話しながら、ハリーポッターに傷を付けたのはヴォルデモートだったよなーと考える。
ということは。

「…ヴォルデモートが猫だったら、超可愛くない?」

例のあの人の正体が猫だったら従っちゃうにゃーと思わず良い笑顔で妄想してしまい、Bちゃんに笑われてしまった。



因みにシャンプーおよび洗顔時は痛くなかったのだが、入浴後の今現在、髪と空気が傷に擦れてとても痛い。
シャンプー・洗顔により瘡蓋が剥げてしまったらしい。油断した。なんてことだ。

ヴォルデモートもといニャルデモートの攻撃力が高すぎる。

-頭だけ突っ込めるような小さいテントみたいなの無いかな。

残念ながらわたしには魔法は使えないので、眠っている間のわたしの顔面を守る為のアイテムを速やかに探しに行かねばなるまい。

次の休みの予定を考えつつ、何処に行けばそんなアイテムがあるのか情報を求めたわたしはネットの海に漕ぎ出すのだった。

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