21歳にして白内障になった話②

前回までの話
21歳の若さで白内障を宣告された僕は、徐々に白く濁っていく二酸化炭素を加えた石灰水のような目を約8年経過観察を続けていたが、とうとう手術の宣告を受けたのだった。

手術が近づいたところで浮上したのは眼内レンズの話である。ここでそもそもの話だが、白内障というのは目の中にある水晶体が白く濁る病気だ。手術ではその濁った水晶体を取り出し、人口のレンズを入れるというわけだ。

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通常お年寄りが白内障手術をする場合は単焦点のレンズを入れるようだ。前回の記事でも少し触れたが、この単焦点レンズを入れると老眼のような見え方になるらしい。そこで、僕のような若い人間に推奨されるのが、多焦点レンズである。これを入れると近くも遠くも見えるのだ。素晴らしい!

しかし高い。めちゃくちゃ高い。単焦点が保険適応なのに対して、多焦点は保険適応外でやたらめったら高いのだ。結果的に僕は多焦点レンズを選んだのだが、その費用は60万円である。60万!!

実は僕は白内障だけでなく、円錐角膜という病気も持っていた。角膜が変形して尖っているらしい。これによって乱視がひどい。また、レンズ選びに当たっての精密検査で判明したのだが、僕はチン小帯と呼ばれる水晶体を支える部分が弱いことがわかった。何だチン小帯って。ふざけた名前である。

簡単いいえばハンモックの支えのような働きをしており、ここが弱いと水晶体を支えられないらしい。かわいそうな僕の左目。満身創痍である。優しくしてあげないと。

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さて、ここまで書いて気がついたのだが、この辺りの話を僕はすでにもう忘れかけている。まだたったの1年前の話なのに。とにかく、僕は白内障だけでなく、円錐角膜、弱小なチン小帯、など様々な要因が絡みレンズ選びに苦労したのだ。

結局僕はIC-8という、約60万の高級レンズが左目に入ることになった。ポケモンのアンノーンみたいなレンズである。

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レンズが決まれば、あとは手術である。海外から届くというレンズの納期等を考慮して2019年5月末に手術が決定した。まだこのときも特に緊張もなく、ヘラヘラしていたように思う。

それから手術当日まではあっという間だった。当日もいつものように診察を受け、採血をし、同じように白内障の手術をするであろう、数人の老人たちと待合室でそのときを待った。この老人たちは僕を安心させた。おじいさん、おばあさんでも耐えれるのだから、僕もきっと大丈夫であると。

順番が近づくと、ネクストバッターズサークル的な要領で手術室の隣の部屋に連れて行かれる。薄暗い部屋にはクラシックが小さく流れ、フカフカの椅子に座ってその時を待つ。手術室の様子もガラス越しに見え、普通に考えれば緊張感のある場所なのだが、何故だか僕はその快適さにうたた寝をした。最初は『ビビり僕も30を目前に肝が据わったもんだ』なんて思っていたが、後から聞けば診察後に飲んだ薬の効果でリラックスしていたらしい。

そんなこんなで、僕の前のお婆さんが部屋から出てきた。ヨロヨロしているが苦しそうな様子はなく、清々しい表情すら感じる。僕はこのお婆さんを見て、大丈夫だ。イケる。そう感じながら手術室に入っていった。

続く

今日の1曲


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