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Insight:Health Tech Startup Vol. 2

"ヘルステック スタートアップ 最前線"

Vol.1では、スタートアップが社会に与える変化を創薬の観点で紹介しました。ではヘルステック スタートアップの状況は、2021年現在どうなっているのでしょうか?スタートアップの中でも、特に企業価値の高いユニコーン(非上場、評価額10億ドル以上)に焦点をあて、情報を整理してみます。

1. ヘルステック スタートアップの勢いと投資額の増加

・世界のヘルステックユニコーンの数:62社(2021年5月時点)
・2020年にユニコーンになった企業:15社中8社がヘルステック関係
・ヘルステックユニコーンの企業価値:1320億ドル以上(2021年5月時点)
・ヘルステックスタートアップに対するベンチャーキャピタルの投資額:   
 2020年第1〜第3四半期までの累計が約560億ドルと過去最高
(出典:Holon IQ, Business Insider

ヘルステックユニコーンの数が62社と聞くと、全500社以上あるユニコーン企業を考慮するとやや少ない印象を受けるかもしれません。ただし、株式上場を果たした企業や買収された企業はカウントされないため、好調であるがゆえに株式上場したり買収されると、ユニコーンという定義上、該当企業数は減少することに注意が必要です。むしろ、ユニコーン化する企業に占めるヘルステック関連企業の割合、投資額の増加傾向から、益々強まるヘルステック分野の勢いに着目するべきでしょう。

スクリーンショット 2021-06-13 9.23.04

出典:Holon IQ

2. 自立するヘルステック スタートアップ

<スタートアップの経営>

スタートアップの多くは投資資本を元手に事業を始めますが、その進む先を大別すると以下のように整理できます。
・自力で利益を上げ、投資額を回収し、事業を継続する(Exit)
・株式上場し、投資額を回収するとともに、事業を継続する(IPO、SPAC)
・事業を売却する
投資はいつまでも続くわけではなく、自力で利益を出さなければ資本は減少するばかりです。自分たちのアイデアを形にするために技術を磨く一方、事業をどう継続するのか、経営戦略も必要とされます。

ただ、最近は成長したヘルステック ユニコーンが早期に自立する傾向にあり、ヘルステックに対する市場ニーズとスタートアップ企業の勢いが伺えます。

<投資回収(Exit)と株式上場>
2020年にExitしたヘルステックユニコーンは7社で過去最高の水準でした。(18年2社、19年4社)。また、これまでのユニコーンによるExitのうち半数以上が20年以降に起きたとされています。
(出典:日本経済新聞、CB Insights

株式上場についても見てみましょう。
2021年に入ってからRecursion Pharmaceuticals、Oscar Health、Corvex Management、Clover Health、23andMeなど多くの企業が上場を果たしています。株式上場することでExitに早く到達できる可能性が高くなります。現在は、株式上場したいスタートアップと、ヘルステック分野に期待する株式市場のニーズが合致した結果と言えそうです。

<SPACとは?>
ここで、Corvex Managementと23andMeがSPAC(特別買収目的会社)を利用して上場を果たしていることにも注目しておきましょう。

株式上場することでExitに到達できる可能性は高まりますが、IPOには時間とコストがかかります。そこで利用されるのがSPAC(Special Purpose Acquisition Company)で、この存在がスタートアップの株式上場を後押ししています。

SPACとは、未公開会社の買収を目的として設立される法人のことで上場した時点では事業を行なっていないペーパーカンパニーです。上場後に、株式市場から資金調達を行い、未公開会社の買収を行うことで、買収された未公開会社は、従来の上場のプロセスを行わずに上場できることになります。
SPACは日本では依然認められていませんが、米国では非常に注目を集めています。上場するための審査に莫大な時間とお金を費やす必要がないこと、著名な投資家が増え安全性が増したことなどが理由に挙げられます。コロナ禍でIPOを諦めた企業が流れる可能性もあり、今後も注目は高まりそうです。
(参考:FUNDBOOK

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出典:Nasdaq

3. ヘルステック スタートアップの内訳から見えること

ヘルステックユニコーンの内、企業価値20位までの国別、業種別の内訳を見てみましょう。

<国別>
アメリカ 12社、イギリス3社、中国 2社、ドイツ 2社、スウェーデン 1社

世界中でスタートアップが生まれてくる中でも、やはりアメリカで多くの有力なヘルステック スタートアップが生まれていることがわかります。内需が大きいことに加え、他国からも優秀な起業家を集められる文化や、大手のベンチャーキャピタルや著名な投資家が多くいることが理由に挙げられるでしょう。
20社から62社に分母を変えても、その内40社はアメリカ企業であり圧倒的に多いのは同じです。ただ、注目するべきは、中国企業が8社含まれ2位に浮上する点です。今やデジタル大国となった中国は、ヘルステックでも存在感を見せており、内需の大きさや資金力を考慮すると、その勢いはさらに増すでしょう。
また、62社を見渡すとイスラエル企業が2社含まれています。イスラエルがスタートアップ大国になりつつあることは過去の記事でも触れましたが、ヘルステック ユニコーンもまた世界で存在感を見せ始めています。


<業種別>
創薬/医薬品 6社、オンライン医療 (デジタル医療)6社、医療機器・検査(AI画像診断含む) 3社、健康保険 2社、福祉医療 1社、データ分析プラットフォーム 1社、DRA/RNAの分析機器 1社

やや強引ではありますが、強いて分類すると上記のようになります。
創薬/医薬品関係については、がんや難治性の疾患へのニーズが大きく、投資が集まっています。加えて、進化の著しいAIの使用、バイオ医薬品など、創薬スタイルの変化が期待を集めています。
オンライン診療の台頭については、アメリカ、中国共に健康保険に課題があること、インフラや物理的な距離と行った医療へのアクセスにハードルがあるなど、独自の事情も寄与しています。しかし、この2年に関しては、新型コロナウィルスの影響が市場を急拡大させたことは間違いないでしょう。一度オンラインに流れた診療スタイルは今後も継続される可能性は高く、市場及び投資の継続が期待できます。

さて、やはり上記の分類方法が強引であるため、20社の概要を本記事の最下段にまとめました。
各社の事業概要を見ると、上記の内容に加え、精密医療、AI画像診断、メンタルヘルス、AIドクターなど、ヘルスケアにおいて、今注目すべきキーワードが見えてきます。
健康保険に対するアプローチなど、日本には当てはまらないサービスもありますが、他の企業のサービスは、いつ日本に展開されてもおかしくありません。自分たちの事業とのシナジーがないか、新たな事業展開のチャンスがないか、是非各社のホームページも含めてご覧になってください。

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出典:Samumed



参考:ヘルステックユニコーン、企業価値上位20社
Samumed(United States):
 再生医療/創薬分野。変形性関節症、乾癬、アルツハイマー病などの治療プ
 ログラムの高度化を図り、男性型脱毛症の改善にも資金を投じている
2 Roivant Sciences(United States):
 他社が開発を中断した新薬技術を買い取り、継続して新薬を開発するビジ
 ネスモデルを採用している。買い取る新薬候補を探索する際に、AIを使用
3 Caris Life Sciences(United States):
 がんを標的とするプレシジョンメディシン(精密医療:それぞれの患者に
 合った最適な治療を行う医療)の実用化を目指す
4 WeDoctor(China):
 オンライン医療プラットフォームを提供する。同サービスはスマートフォ
 ン上のアプリで提供される。自分の症状を入力し、医師にその状況を診断
 してもらい、処置の指示をもらうことができる
5 United Imaging Healthcare(China):
 MRI、CT、X線撮影システムなどの大型医療機器及びAIを用いた画像診断を
 開発、製造する
6 Ginkgo BioWorks United States
 医療、消費財に利用する有機物を作り出す、微生物の設計を手掛けている
7 Radiology Partners(United States):
 医師が経営する放射線医療法人として米国最大の規模を誇る。AI画像診断
 を積極的に採用し、診断の高度化、効率化を進める
8 Devoted Health(United States):
 高齢者向けの医療保険の提供を軸に、パーソナルケアも実施。保険加入者
 向けにテレビ電話を通じたオンライン診療も提供する
9 Intarcia Therapeutics(United States):
 バイオ医薬品メーカーであり、FDA承認のITCA 650を軸に事業を展開す
 る。ITCA 650は、2型糖尿病の維持療法のための、薬品を送液できるイン
 プラントシステムである
10 Ottobock(Germany):
 総合医療​福祉機器メーカーであり、義肢・装具の世界的なリーダーとし
 て、高品質な義肢・​装具、車いす、小児用座位保持装置や歩行器などの機
 器を取扱う
11 Komodo Health(United States):
 研究室から製薬企業、そして医療機関の臨床現場までの「医療システム全
 体」をシームレスに繋ぐデータプラットフォームを提供している
12 Grail(United States):
 血中に存在する極小のがん遺伝子を特定するし、血液検査でがんを診断す
 る技術開発に取り組んでいる。
13 Hinge Health
 腰痛や関節痛などの慢性的な筋骨格疾患を測定し(ウェアラブルセンサ
 ー)、そのデータを元にオンライン診療を行える、デジタルソリューショ
 ンを提供する
14 BenevolentAI
 AIで新薬の発見や開発、テストを効率化し、新たな医薬品を開発するとと
 もに、臨床試験や学術論文を含む医療データを取り扱うプラットフォーム
 を構築している
15 ATAI Lifescience
 メンタルヘルスの病気治療を目的とする化合物の可能性を探っている。
 精神疾患の治療法の変革を目指すバイオ医薬品企業
16 Babylon Health
 人工知能を活用したAIドクターを開発した。NHS(英国の国民保険サービ
  ス)とも契約を結び、従来は医師が家庭を訪問して行っていた診断を、ア
 プリやチャットボットを活用したものに置き換えている
17 KRY
 オンライン診療アプリを提供する。
 医師、看護師と心理専門職によるオンライン診療で、医師の診察は毎日
 6:00~24:00とほぼ終日提供されており、カバーしている分野も風邪、ア
 トピーやニキビといった皮膚疾患、アレルギーや、性感染症、慢性疾患の
 薬の管理、腰痛、月経やPMSといった婦人科の相談など幅広い
18 Oxford Nanopore Technologies:
 DNA/RNA シーケンシングを開発している。
 ナノサイズのポアを用いて、DNAやRNAの塩基配列を直接解読できる新し
 いシークエンサーを開発している。短い断片をはじめ、長いDNAやRNAを
 直接、リアルタイムに解読でき、従来法よりも生物学的な情報を多く得る
 ことが可能
19 Aledade
 プライマリケアの総合サポート、保険点数の算定などを行っている。
20 Virta Health
 2型糖尿病向けのオンライン支援ソリューション。リモートでのコーチング
 や医療従事者によるサポートにより、二型糖尿病の管理を行うサービスを
 提供している


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