古典
古典
わたしは古典が好きだ。
古今東西和洋問わずである。
古典はあらゆることをわたしに教えてくれる。
政治、法律、経済などのあらゆる教養を。
もちろん人間関係や善悪、愛や死を教えてくれもする。
とにかく古典はいいものだ。
古典の中には言葉が溢れている。
その一つ一つが私には輝いて見える。
古典の中には景色が溢れている。
その一つ一つが私に光を与えてくれる。
古典の中にはシチュエーションが溢れている。
その一つ一つに想いを寄せ自らを重ね合わさせてくれる。
ところで私は今、屋上への階段を踏み締めている。
カビ臭さ、ホコリっぽさ、手入れされていない階段のひび割れ。どこかから聞こえるトランペットの音。友とはしゃぐ声。
それら全てを五感で感じる。
古典の文字からは伝わることのないもの。
屋上に行く理由は単純だ。
下駄箱に手紙が一通忍ばせてあったからだ。
それの与えた喜びや疑心。
それらも古典の文字からだけではわからなかった。
屋上の扉へと手をかける。
何故か鍵が開いている。
開けると朱色の光が差し込み、秋の冷たくなった風が吹き抜ける。
そして少女が一人。上履きのラインは赤色。一年生だ。
「先輩、来てくれたんですね。」
朱色の日差しに照らされた彼女の頬は微かに赤い。
秋風がブレザーを撫でる。
「大事なお話があります。」
彼女は一つ呼吸をしてわたしを見つめる。
その眼差しはどこまでも真っ直ぐで。
その眼差しはどこか熱があり。
その眼差しは私だけに向けられている。
手がじっとりとしているのに気がついた。
私自身も緊張している。
私の心臓は足を速める。
体中を鳴動して駆けていく。
「私は、あなたのことが」
下駄箱の手紙、夕方の屋上、そこでの告白。
どれをとっても古典的だ。
だから私は古典が好きだ。
隣に座る彼女もきっとそうだろう。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?