「賭け」にでること/書くことは難しい⑥
秋がちょっとずつ満ちてきました。甘くておいしそうな匂いの漂う秋が、天高く馬肥ゆる秋が、今年も来ました。
秋の到来は嬉しいものです。ちょうどお風呂上がりの気持ちよさに似ています。暑い暑いと言っていた体が冷めていくときの気持ちよさ。それと似ています。
秋は読書の季節ですね。最近は2冊の本をつまみ読みして過ごしています。
「なぜ、私たちは恋をして生きるのか 「出会い」と「恋愛」の近代日本精神史」
(著 宮野 真生子)
「弱くある自由へ 自己決定・介護・生死の技術」増補新版
(著 立岩 真也)
この2冊を読みながら、恋愛と偶然、そして迷惑と自己決定について少し考えていました。
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思えば、理系出身で、つい2、3年ほど前まで生物の論文ばかり読んでいた身とは思えないくらい、自分の専門外の、それも文系の本ばかり読んでいます。
こんなに文系の本を読むようになったのは、SNSの影響です。学生時代、恋愛や就活で辛い時期にTwitterで見つけた、誰かがオススメしていた本を図書館で借りて読み、おもしろくてその著者の別の本も読み、同じ分野の本を読んでみて‥という風にして、辛い時期を何とかやり過ごして生きてきました。
「自分で決めたことなんだから、もっと頑張りなさい」
「そんなに悩んでいても何にもならないんだから、悩むのはやめなさい」
「自己責任だから考えても仕方ないんじゃない?」
という、自分の内面に染み付いた声と闘うために、理不尽を理不尽だと怒るために、そして、そういう声に弱ってしまった自分を守って気の済むまで考えるために、本を読んできました。
本を読むときはほとんど、何かから逃れたいと思っていました。「知的好奇心」や「自己実現」、「行動主義」といったものには駆動されなかったように思います。逃れたいその「何か」について知りたくて、わたしは本を読んでいました。自分を苦しめているものは何なのか、それすらわからず、ただいきどおる心だけをエネルギーにして、生きていました。
日々を何とかやり過ごしていた昔の自分がいるから、今こうして面白い本たちに出会えていると思うと、偶然とは不思議なものです。
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今読んでいる「なぜ、私たちは恋をして生きるのか 「出会い」と「恋愛」の近代日本精神史」では、日本の哲学者である九鬼周造の研究内容である「いきの構造」や「偶然性」について、紹介されています。
この本に出会えたのは、著者である宮野真生子さんが共著をつとめる別の著作「急に具合が悪くなる」を読んだからでした。この本も、Twitterを介して出会いました。
もう1人の著者である人類学者の磯野真穂さんが、今日(9月21日)ご自身のブログを更新してらっしゃいました。タイトルは「書くことは未来の出逢いに賭けること」。
ここでは、「急に具合が悪くなる」の第9便の内容に少し触れられています。詳しい内容についてはぜひ本を読んでいただきたい(2019年に読んだ中で抜群におもしろかった本です)のですが、ブログの内容で印象に残った文がありました。
彼女(引用者註:がんで闘病中だった宮野さんのこと)は、肉体としてはおそらくもう長くはないであろう自分の言葉が、自分の死後、ずっと先の未来に届く可能性に賭けた。それが「生きるって何なんでしょう」と自身に問う彼女の答えの一つだったんだと思います。(ブログより引用)
この言葉、心が震えました。
noteをお使いのみなさんはご存知だと思うのですが、noteにはダッシュボードという機能があり、そこでどの記事がどれくらい読まれているかが分かります。そうすると、こういう記事が読まれやすい、関心を得やすいのだな、と分かってしまいます。
ただ、それを意識すると書けなくなってしまうのです。自分はなんて打算的な人間なんだと、書くのが辛くなってしまう。これを書くとよいのかも、いや書くべきなんだ、と義務的に思ってしまいます。
そんな風に最近少し悩んでいました。そんなときに触れた磯野さんのブログの言葉で、呼吸がしやすくなった心地でした。
磯野さん、そして宮野さんの言葉は、今を生きる20代のわたしに、届いています。そして、
「書くことは未来の出逢いに賭けること」
この言葉を大事にしようと思います。
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わたしは書くことが苦手です。過去、書くことが苦手ということについて、文章を書きました。そして、苦手でも何か書きたいという欲にしたがって、できるだけ自分のペースを崩さないよう、書いてきました。
今日、大事にしたい言葉に出会うことができました。予想外のところから、言葉があらわれました。書くことは難しいですが、ぼちぼち続けようと思います。過去の辛かった自分自身を慰めるために。そして、未来の出逢いに賭けるために。
今日もとりとめもなく書いてしまいました。お付き合いくださりありがとうございます。
(ねこやなぎ)
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