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小説

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#純文学

『貝に続く場所にて』 石沢麻依

『貝に続く場所にて』 石沢麻依

うっすらとした非現実が淡々と現実に溶け込む世界が、美しい文章で描かれる。
そして幻想的な全体の中に、哲学的な内容があれこれ詰まっている、豆大福的な小説。
主題は重いが、短時間で読める長さでつまみ読みにも適した、文句なしの絶品だ。

*****

ドイツの大学に留学して博士論文に取り組んでいる主人公。彼女は震災を経験しており、仙台の大学で同じ研究室にいた仲間を一人、津波で亡くしている。
震災から9年

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『はぐれんぼう』 青山七恵

『はぐれんぼう』 青山七恵

社会の片隅に追いやられがちな繊細さんがゆるりと自分探しなどをしていくお話か、と思いきや、予測を裏切るパンチの効いた冒険譚だ。

押しが弱く存在感も薄い主人公優子は、「あさりクリーニング」でアルバイトとして働いている。
職場ではおしゃべりで押しの強い先輩社員、馬宵さんの話相手になり、家では地味な自炊をしながら、淡々と過ごす毎日。

そんなある日優子は馬宵さんから、「はぐれんぼちゃん」たちを家に持ち帰

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半島

半島

『半島』 松浦寿輝

魔の時間。
この小説を一つの言葉で表そうとしたらこの言葉が浮かんだ。

半島。海と陸の境。
現世に倦んだ男が行き着いた半島で出会うのは、この世の人間でありながら別の世界の空気をまとう、どこか人間でないような印象を与える人々である。
小さな子供達と暮らす謎の中国人女性、人当たりの良さと剣呑さが同居する老人、その娘の、頭を剃り上げたダンサー、不吉な予言をする易者など、、、皆どこか

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