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甲子園出場校をセイバーメトリクスで分析 打力編

2022年の夏の高校野球。
甲子園出場校を「セイバーメトリクス」で分析してみた。

セイバーメトリクスとは?

まず初めに申し上げておくと、セイバーメトリクスはあくまで1つの指標であり、それがそのままチーム力と置き換えられるわけではない。

対戦相手も試合数も各校で異なる「高校野球」では特にそう言えるだろう。

ただ高校野球では
「あの高校は良く打つ」
「あの高校はピッチャーが良い」
「あの高校は強い」
とイメージ論で戦力を語られる事が多いのが事実だ。

実際に対峙した際に相手から受ける威圧感、雰囲気、そして緊張といった様々な要素が結果に影響する。
高校生であればなおさらである。

だが
「どういう風に強いの?」
という問いに回答するには、例え実際に結果が異なったとしても、データから回答を出すのが最も説得力があるのは間違いない。

なぜならデータを元に分析する事で、強い弱いは判断できなくても、「各校の戦い方、得意不得意」はある程度の傾向が掴めるからだ。

打線総合(OPS)

OPSとは簡単に言うと「出塁率+長打率」で求められる。
ここから分かるのは「アウトになりにくさ、そして効率よく進塁を稼ぐ力」となる
OPSは打線の総合指標として参考になる。

出場校のトップ10は下記の通り。

1 愛工大名電(愛知)1.178
2 山梨学院(山梨)1.163
3 智辯和歌山(和歌山)1.121
4 明秀日立(茨城)1.118
5 日大三(西東京)1.114
6 天理(奈良)1.111
7 明豊(大分)1.062
8 札幌大谷(南北海道)1.057
9 高松商(香川)1.045
10 鳴門(徳島)1.023

一般的にOPSが1.000を越えると相当優秀と言われている。

各地区のレベル、対戦相手が異なる点を考慮せず考えるとデータから上記のチームは「打線が強い」と言えるだろう。今大会で言うと、地区大会で最もアウトを取りにくいチームは愛工大名電だったということになる。

意外なのは今大会の優勝候補で強打のイメージが強い大阪桐蔭がランクインしていない点。ただ大阪桐蔭はOPS:1.002の15位と激戦区大阪のレベルを考えるとこれはこれで素晴らしい成績である。

また県立校でありながら上位10校に入る高松商、鳴門は素晴らしい好成績といえるだろう。

選球眼(BB/K)


筆者が高校野球の試合展開を考える際に、最も注視するのは「選球眼」である。

ボール球に手を出すかどうかが結果に大きく影響するからだ。逆の視点で考えると「ボール球を見逃す事が得意なチーム」を相手にすると「コントロールに不安のある投手」は、どれだけ球威があっても本来の力を発揮出来ず自滅するケースが考えられる。

その選球眼を測るため、BB/Kという指標をもとに考えるようにしている。

このBB/Kという指標から分かるのは
「ボール球に手を出す三振」が少ないチーム
これが一般的に言われる「選球眼」をデータ化したものと考えて良いだろう。

BB/Kトップ10
1 天理(奈良)4.13
2 高松商(香川)3.71
3 横浜(神奈川)3.30
4 愛工大名電(愛知)2.64
5 近江(滋賀)2.60
6 佐久長聖(長野)2.58
7 智辯和歌山(和歌山)2.46
8 九州国際大付(福岡)2.40
9 明秀日立(茨城)2.27
10 日大三(西東京)2.14

ここで興味深いのは天理と明秀日立。

天理はセンバツ初戦で星稜マーガード投手にボール球を振らされて初戦敗退。
明秀日立は秋の成績では長打力はあるものの三振も多くBB/Kはワーストに近い数値だった。そしてセンバツでは市和歌山の米田投手の高め速球に手を出して詰まらされた。

その経験・反省が生かされたのだろうか、この両校はこの夏にチームの問題点であった「選球眼」が改善されている事がデータからうかがえる。

長打力(長打率)


現代の高校野球で勝ち進むためにはどうしても長打力が必要となっている。

長打力を測るには単純に長打率で見てみる。
ただここで言う長打率とは単純に「長打を打つ確率」ではない。
セイバーメトリクス分析では「塁打を打席で割った数値」を元に考える。つまり本塁打は4で計上し、2塁打は2で計上される。
本塁打は2塁打よりも価値があるという考えだ。

長打率トップ10

1 愛工大名電(愛知).687(本塁打8)
2 明秀日立(茨城).657
3 智辯和歌山(和歌山).649(本塁打9)
3 山梨学院(山梨).649
5 天理(奈良).638
6 日大三(西東京).624
6 明豊(大分).624
8 札幌大谷(南北海道).616
9 一関学院(岩手).594(本塁打10)
10 横浜(神奈川).577

ここで注目したいのが一関学院。
意外かもしれないが今大会で最多の10本塁打を記録している。
最多本塁打の上位3校は上記の通り、一関学院・智辯和歌山・愛工大名電となっている。

ここでも意外と大阪桐蔭の名前は出てこない。
普段からインタビューで西谷監督は「うちは粘りのチームなので」とコメントを残し、時に謙遜のように受け取られるが、西谷監督のコメントはデータ的に見ても完全に事実を語っていると言える。

打力に不安を残すチームは?


これらの指標を逆に見ることで、この夏は打線が活躍出来なかった高校、つまり「打力に不安があるチームはどこか?」という分析もできる。

各項目のワースト5は下記の通り。

OPSワースト
1 日大三島(静岡).719
2 鳥取商(鳥取).727
3 富島(宮崎).742
4 浜田(島根).755
5 社(兵庫).762

BB/Kワースト
1 能代松陽(秋田)0.67
2 鳥取商(鳥取)0.71
3 日本文理(新潟)0.79
4 樹徳(群馬)0.80
5 八戸学院光星(青森)0.86

長打率ワースト
1 富島(宮崎).368
2 日大三島(静岡).375
3 浜田(島根).389
4 鳥取商(鳥取).390
5 旭川大(北北海道).394
5 有田工(佐賀).394

上記のチームはやや打力に不安が残ると言えるだろう。
しかし忘れてはいけないのは「打線は活躍したとは言えないものの、この夏に全勝している」という事実である。

つまり打線を補う何か別の要素があったから勝ち進んでいるわけである。それは投手力・守備力であったり、接戦を勝ち抜く精神的な強さであったりする。

よって上記の高校が能力に劣るというわけではない点は、くれぐれもご理解いただきたい。

データ分析で重要なのは「データ上の優劣」ではなく、あくまで「そのデータから何が読み取れるのか」という事である。

そして各校、地方大会のデータから反省点を見つけ出し、改善して成長した姿を甲子園で披露する。
その結果、私の想像をはるかに超えた活躍をする選手が現れる。

「予想がことごとく外れてしまう」
高校野球のデータ分析をする上で、それが私にとって最大の喜びでもあるのです。

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