ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第43わ「その双眸に」

承前

何処からともなく取り出したるナイフを握り、相棒は自分の胸を一突きにしようとしている。十中八九、泣いているのは演技だと思う。吸血鬼がナイフで死ぬとも考えづらい。しかし、ここで彼女との関係が悪化すれば❝ゲーム❞に勝ち続けて生き残ることは厳しいだろう。仕方ない、ここは騙されたフリをするしかない。吸血鬼の目玉を受け入れることにした。

「ひっく。わ、分かってくれればいいんです。分かってくれれば」

跪いて、差し出された眼球に顔を近づける。目玉の怪物(そうとしか思えない)は嬉々として俺の眼窩に飛び込んで───何の苦痛も無く、俺の体の一部になった。直後、酷い眩暈に襲われる。違和感の正体が視力に由来するものだと理解するのに数秒かかった。
右目の視力が上がり過ぎたせいか、左目との焦点を合わせるのが難しい。これは慣れるまで時間がかかるかもしれない。

「嗚呼、良かった。これでダンナは私に隠し事が出来なくなりましたからね

続く

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