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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第117わ「練習は本番のように」

(承前)

「ちょっと待って。落ち着いてください。いいですか?ぶっつけ本番で、それもゲームマスターを相手に十代そこそこのニンゲン幼体、しかも貝殻野郎のダンナが交渉を持ちかけるって?死にに行くようなものです!」

だから死にたいって言っているだろう。お前と心中することに関しては嫌なんだけど、本当に嫌だし心の底から嫌なのだけれど最悪の場合は止むを得まい。それよりも❝インセンス❞で自分が自分でなくなることの方が辛い。俺が俺でなくなる、それは死よりも厭わしいことだ。それから貝殻野郎とかいう俺に対する論評は撤回したまえ。

「撤回なんてしません!ゲームマスターを説得するというなら、最低でも私ぐらいは納得させられなければ、万に一つも望みはありませんよ!」

……そう来たか。てっきり力ずくで俺を連れ戻して力任せに俺をどうにかしようとすると踏んでいたのだが。

「……まぁ、何と言いますか、これも一種の親心と言いますか。ダンナが本当にやりたいことだと言うなら私には止めることは出来ません。でしたら、せめて決意のほどを示して欲しいと思うのですよ。と、いうワケで」

何だ?何をさせる気なんだ?相棒が指を鳴らすと黒い風が俺の身体を吹き抜けた、そう思ったのも一瞬のことだった。気が付けば、俺は教会の屋根の上に立っていた。そして相棒が尖塔の頂上に片足で立っているのを見上げていたのであった。

「立場が逆になったと仮定しましょう。もしも!?ダンナの目の前で!生きることに絶望した女性が今まさに自ら命を断とうとしていたら!?どうすれば思いとどまらせることが出来ますか!?これはそういうテストです!」

え?お前そこから落ちても死なないじゃん。受け身を取るまでも無いじゃん。

「だから、仮定の話だと言っているでしょう!」

そうは言っても気持ちが入って来ないというか。テストとしても臨場感に欠けるというか。

「早く私の説得を開始しないと問答無用で失格にしますよ!?」

(続く)

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