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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第116わ「生き方も、死に方も」

(承前)

家を飛び出した俺が向かうのは近所の教会だった。神の家に逃げたところで吸血鬼の魔の手から逃れられるわけではないことは身に沁みて理解しているつもりだった。その建物は既に上位吸血鬼の寝床になっているのだから。

「ダンナ!まだ外は危のうございますよ!早くお家にお戻りください!」

しばらく経つと相棒の声が背後から聞こえた。右目の視界が共有されなくなったのか、俺の居場所を把握するのに手間取っているようだ。今のうちに少しでも距離を稼がねばなるまい。問題は教会に入った後だ。本当の勝負は、そこからなのだから。

「見つけましたよ!ニンゲン風情がやってくださいましたね……」

そう思った矢先に相棒に回り込まれてしまった。……それもそうである。吸血鬼の脚力で垂直ジャンプした後に吸血鬼の視力で街を見下ろせば走り回る標的を探すなんて朝飯前だものな。

「惜しい!正解は『ハントマンの嗅覚でダンナの位置を割り出しました』です!」

すっかり相棒は、何と言うか……普段通りの相棒だった。右目も新しいものを生成したらしい。元気そうで何よりだ。そこを通してもらおうか。

「どっこい通せませぬ。行き先も告げないダンナを一人で出歩かせることなど、とてもとても」

俺は教会に向かっている。ゲームマスターと交渉する為にだ。お前の立ち合いは必要ない。日焼けする前に棺桶に戻った方がいいぞ。

「へえ、交渉ですか。あのいけ好かないシスターと?そもそもダンナに差し出すカードがおありなんですか?まさかとは思いますが……」

俺は命と血液を全て差し出すつもりだ。

「却下です。ダンナが死んだら私も道連れなんですよ。止めない理由が何処にございますか?ありません!」

交渉の争点は其処だ。俺はゲームマスターに全てを差し出す。代わりに❝ゲーム❞から降りる相棒の助命を嘆願する。俺は死にたい。そして相棒と心中なんぞしたくない。せいぜい次の❝ゲーム❞では新しい人間と仲良くやるといいさ。

(続く)

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