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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第115わ「今までも、これからも」

(承前)

……究極の選択。理性、本能、記憶のどれか一つを手放せと相棒は俺に言う。

「ささ、どれか一つを選んでください。ちなみに全部イヤだなんておっしゃるなら、本当に何もかも失うことになりますからね」

万事休す。否、この❝ゲーム❞に巻き込まれた時点で俺は既に終わっていたのだ。否、否、吸血鬼どもの上層部どもの采配によって、それとは知らずにツガイになった男女の間に生まれた時点で俺の破滅は定められていたと言っても過言ではない。俺は生贄になるべくして生まれた家畜だったのだから。悔しくて虚しくて左目から涙が溢れて来た。涙を流す悲しみさえも俺はすぐに手放さなくてはならないと思うと嗚咽が止まらなかった。死にたい。

「あわわ……いけません!ニンゲンはストレスで血液の風味が落ちてしまうのですよ?早く泣き止んでくれないと困ります!」

寝返りを打って相棒に背を向ける。俺を救うアイテムをバレないように胸のポケットから探り当てる為だ。進学祝いに母親が俺に買い与えてくれた万年筆。ずっと学習机の引き出しにしまったままだったけど。❝ゲーム❞が始まってからは肌身離さず持ち歩いていたのは、この日の為だったのだと思う。

「もう、分かりましたよ。急に言われてもダンナにも考える時間が必要ですよね。今日のところは諦めますから、泣き止んでくださいな。ね?ね?」

相棒の冷たい両腕……最終的には三倍の六本腕が俺の背中を撫で回している。迷っている時間は無い。俺は万年筆を右目に突き刺した。相棒と視界を共有させられている右目に。

「な……ッ!?」

激痛。不意を突かれれば吸血鬼も隙を晒すことは把握済みだ。相棒も右目を押さえて苦しんでいる。激痛。苦痛が俺に死に物狂いの力をもたらしてくれた。激痛。棺の蓋を全力で蹴飛ばして、激痛。俺は棺の外、部屋の外、激痛。家の外へと飛び出していた。さらば、俺の相棒。激痛。俺はお前のことが嫌いだった。ずっとずっと嫌いだった。激痛。

(続く)

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