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ハントマン・ヴァーサス・マンハント(邦題:吸血貴族どものゲーム)第118わ「茶番」

(承前)

納得は出来ないが状況は理解できた。つまり、相棒は投身自殺を図る女性の役を演じ、俺はその場に居合わせた青年の役を演じなければいけないのだ。よし、まずは自殺を止める為には其処に至る経緯を聞きださねばなるまい。

「え?」

人間は理由も無いのに自分で自分の命を絶とうとは思わないんだよ。お前ら吸血鬼は違うのかもしれないけどさ。まず目の前の相手の苦しみを理解できなきゃ説得なんか出来る筈もないだろうに。

「ええと、そうですね。失恋しました。悲しくて辛いので死にます

相手はどんな男だ?君のような素敵な女性を袖にした男だ。女をとっかえひっかえしている色男か?それとも単純に審美眼の無い男なのか?

「あの、そこは重要なんですか?まぁ仕方ないか。ええと……色男ではないです。それも圧倒的に。ザ・地方都市のクソクソダサ坊やって感じ。ちょっとばかり勇敢で、弁が立つからって、自尊心ばかり一人前で最悪です」

……そんな男に振られたところで君が悲しむ理由が分からない。少なくとも死んでしまえば次の相手を見繕うことも出来ないじゃないか。

「❝そんな男❞も自分の思いのままに出来ない自分の器量に絶望しているんです!今までは、私が『吸いたい』って言えば、喜んで首を差し出す男しか居なかったのに!ニンゲン風情が私の心の平穏を無茶苦茶にするなんて!!」

やっぱり地方都市のクソクソダサ坊やって俺の事だったんじゃねえか!死ね!そのまま飛び降りてくたばれ!お前みたいなアバズレは見たことが無いぞ!

「何ですって!?アバズレも何もダンナが私の他に女性を知らないだけでしょうが!違うのでしたら例を挙げてみてくださいな!実例を!」

「君達、私の家の屋根で何をしているのかな?」

遂にゲームマスターのお出ましだ。無理も無い。俺だって自宅の屋根の上で騒いでる男女が居たら文句の一つ二つは言いたくなるものな。テストも台無しになったところだし、丁度いいタイミングだった。

(続く)

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