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[読書の記録]大和田俊之『アメリカ音楽史』(2016-02-29読了)

 大和田俊之先生の2011年作『アメリカ音楽史 ~ミンストレル・ショウ、ブルースからヒップホップまで~』(講談社)を読んだ。

 アメリカ音楽史は、そのまま20世紀のポピュラーミュージックの歴史そのものである。
 ブルース、ジャズ、ロックンロール、ファンク、ヒップホップといった、現在メジャーなポピュラー音楽のジャンルの全てはアメリカ合衆国を原産としている。
 というかまさにこうしたジャンルの区分自体が、人種別のマーケティングの有用性に着目したアメリカの音楽産業による発明である。

 一読して、選書ならではの、大学の教養部の講義1ターム分のような柔らかさと網羅性を兼ね備えた内容だという印象だが、「(人種的な)他者への偽装」という、米国ポピュラー文化に通底する欲望を描き出しており、一本芯の通った文化批評でもある。
 また、米国の音楽の歴史を、「白と黒」の二分律と弁証法による進化という説明に留めず、ラテンアメリカという第三項を持ち込むことで既往の図式を掻きまわしてもいる。
 ラテンの重視は、『文化系のためのヒップホップ入門』にも出てきた大和田先生の持論であり、個人的に興味深いと思う。
 『文化系の~』では、ゼロ年代ヒップホップにおけるラティーノ要素強化&レゲトンとのクロスオーバーや、50年代ジャズにおけるアフロ・キューバンの登場の類似性が指摘されていたが、本書ではブルースの誕生におけるラテンの経由が仮説的に示される。
 ただ、ラテンの話も、あまり突っ込むと全体が見えづらくなるので、最後に少し触れるにとどめ、あくまで概括を重視した構成になっている点は、ビギナー的な人に対する配慮だろう。

 タイトル通り、アメリカの音楽の歴史の全体像を把握したい人にとっては最適な本だろうし、有る程度知見がある音楽愛好家でも必ず新しい発見があるはずで、巻末の文献表から、読書の幅が広がっていくことは間違いなしだ。

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