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裸の光でみる世界_兎丸愛美 / 笠井爾示 「羊水にみる光」感想文

どうも、とりです。少し前になりますが、女優・兎丸愛美さんと写真家・笠井爾示さんの写真集「羊水にみる光」を購入しに、学芸大学にあるBOOK AND SONSで行われていた写真展に行ってきました。長閑な街の中、写真が展示されるギャラリー内はつめたさとあたたかさが共存しているようで、写真を見ている間、丁寧に心の奥が掻き回された感覚がありました。気づけばすうっと喉が開いて、光と空気の美味しさをそのまま腹に溜め込むようなあたたかさ。人であること、女性であること、私であることの歓びを感じる写真展及び写真集でした。早速感想文を書かせていただきます!

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苦しくもあり、幸せでもある瞬間。写真の中で眠る兎丸さんの嘘偽りのない存在。初めに写真を目にした瞬間、どっと重たい影がとても素直で衝撃だった。しかし写真と触れ合っていくうちに、その影は何も特別なものではないと感じ、むしろ懐かしさを覚えた。そして次第に影から光に着目していた。誰しもが手にしていたはずなのに、いつのまにか失くしてしまった光。大人になるにつれ遠くに置き去りにした尊い光を、素直な指先で優しく手繰り寄せているような、そんな純粋な輝きを放っている。とても美しく、羨ましい光を見た気がした。

純粋な目で自分自身を、他人を、外の世界を眺めることができる生まれたての瞳。ヌード写真は一見衝撃的だけど、実はとっても優しくてあたたかいことを改めて感じる。写真展でじぃっと写真を眺めていると、記憶にないはずなのに生まれた日の映像が脳内で流れて、自然とつーっと涙が溢れた。私は私として、もう一度生まれてみたい。長く生きるほどに薄汚れてしまう純真さも、本当はずっと純真のまま透き通っていることを実感して、それにとても安堵した。

美しくあろうとする必要はない。私たちは生まれた瞬間から常に誰かと競争し、自分の価値を自他ともに認められるよう努力してきた。しかしながらその努力は美しいようでいて、虚しすぎるほどに儚いものだったりする。競争しようがしまいが、命の価値は全て決まっている。美しくあろうとするまでもなく美しいということを、いつの間にか忘れて暮らしている。競うことの楽しさがあるし、競争を糧に高みを目指すことは、それはそれで命らしい振る舞いだけど、命の美しさだけは比べようにも比べられないし比べる必要性もない。そんなことも忘れて、何かにイライラしてどデカイため息をついて、今日も眠るのだ。なんとも人間らしい日常だが、写真集を見開くとその人間らしい重みがどっと退く。忘れかけていた、真新しい命のような輝きを取り戻す感覚があるのだ。だからあのとき涙が出たんだと、日常のなかで改めて写真集を見たときに理解した。

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マンションやビルが見える大きな窓のもと。股を広げてだらしなく寝そべる兎丸さんは、しっかりと大人の身体なのに子どものようにも見えた。それは羨ましい光景だった。子どもの頃の無敵のだらしなさを思い出す。あの頃は裸で駆け回ることの楽しさを直感で認識していた気がする。あぁ今の私も、ここまで裸になれたら……。

誰かに認められるため、誰かに褒められるために、必死に自分を身繕いして、虚しい自信を得て、翌朝になると得られたはずの自信が綺麗さっぱり崩れ去って、また必死に身繕いをして、また虚しい自信をかき集める。そんな日々を無意識のうちに過ごしてしまっている。現に今も。しかし「誰かに認められるため」なんていうのは、自分を守るための、最強に卑怯で臆病な盾だと気づいた。裸で寝そべるだらしなさ?いいや。必死に臆病な盾を構えるより何倍も逞しく美しい姿ではないか。光を遠くに置き去りにしたのは、自分という存在を必要以上に浮き彫りにさせたくなくて、存在に対する自己嫌悪や羞恥を隠すために必死に身繕いをしていただけなんじゃないか。裸になれない私の中の、裸んぼの純真が喚く。少しづつ、少しづつであるが、取り繕っていた一枚一枚を肌けさせるよう、言葉の世界で裸であろうと試みる。涙が止まらない。

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「羊水にみる光」というタイトル。このタイトルと写真集を照らし合わせると、ピシャリと当てはまる心地よさがある。親から子が生まれてくるように、子が親の愛を求めるように、自然に寄り添っている。それがあるべき姿であるかのように。 

写真展を後にした帰り道、外の世界の色がとても淡く写った。なんてことない。怖いことなど何一つない。私が見る世界の色は、私の中の光が色をつけるのだから。純真な光は遠くに置き去りにしただけで、また手繰り寄せることができるのだから。そしてこれは、全く虚しい自信でなかった。

明日もまたメラメラした日常を生きねばならず、尻込みしてしまう臆病さは相変わらずだけど、自分の中にある裸んぼの純真さを抱きしめて、私は私の光で世界を見て、私の感動で生きるのよ。うん、それがいい。


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インタビューで知ったのですが、兎丸愛美さん、香川県の豊島美術館が好きだそうです。実は私も一番好きな場所が豊島美術館なんです。水が生命を宿しているみたいで、風が気持ち良くて、響く音が安心感を与えてくれて。いつか家を建てるときに、豊島美術館のような空間を再現したいと思っているほど(具体的な構想はゼロですが)。まさに「羊水にみる光」も、豊島美術館で感じたものと似たような感覚があるなぁと思います。また訪れたくなる。そんな居場所がまた増えたような気がします。

そして写真家の笠井爾示さん。最近インスタライブをされていて、それがとても興味深い。写真家の方が、SNSを通して自発的に言葉を発してくれるのってなかなかレアなことですよね。大学生の頃、書店で「東京の恋人」を見つけたときに目まぐるしく惹きつけられたことを思い出して、少しづつそのときの突発的な反応の答え合わせをするかのようです。写真と言葉の面白い関わり合いを感じ、写真をもっと知って、見て、読み込んでいきたいと思う次第です、、!


では、おしまい。

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