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悩み多き大学生のためのキャリアデザイン入門 Vol.1【小説版】

はじめに
 大学生は単純に計算すれば、1年の半分は休みということになります。
 今後の人生でこれだけの休みは、おそらく定年するまでないでしょう。
 その定年も引き上げられる傾向にあります。
 公務員の定年も60歳が65歳になろうとしています。
 ひとえに日本の少子高齢化社会が原因です。
 

 人生100年時代が目前に迫ってきています。
 2038年までに、日本の労働人口の約半数の労働が、AIやロボットに置き換わる可能性が高いと言われています。
 生き方や働き方を否応なく変えていく必要があるかもしれません。
 どのように大学生活を過ごすかで、あなたの人生は大きく変わっていきます。

 様々な面から、どのようにキャリアを構築していけばいいのか
日夜、研究がなされています。
 人生には、正解も不正解もありませんし、結果がどのようになるかもわかりません。
 不確定要素が高い社会でどのようにキャリアをデザインしていくのか。
 私なりに考えた結果、今の時代なら、エンタテイメント性に傾いた小説風に連載形式で伝えるのが良いのでは、という結論に至りました。
 楽しく人生やキャリアについて学ぶ。
 漫画もいいかもしれませんが、活字の方がいいと思います。
 書くこと、読むことは連動しているため、漫画よりも小説の方がより適切でしょう。

 どのくらいの分量が適当かは意見が分かれそうですが、少しずつ増やしていった方がいいかもしれません。
 読書巧者よりも、迷い悩みもがいている大学生に発信したいからです。
 そうなると、最初から全力疾走は向かないと思っています。

 さて、私の紹介です。
 大学で働きながら、キャリアデザインの研究を大学院で行ったり、
小説を書いたりしていました。
 今は身体的な難病に苦しんでいます。
 脳ははっきりしているので、執筆には支障はありません。
 就活やキャリアついて、フリーライターとして、執筆も行っていますが、ネットの世界では、自分が書いた記事がお金にはなっても、成果として残らない気がしています。
 村上春樹に言わせれば、雑文屋です(笑)

 前置きが長くなりました。

 自分の道は自分で切り拓きましょう。

 さあ、扉は開かれました。


1.
 桜が散った頃、私の大学では入学式が開催された。
 入学式といっても、すでに大学には何度も通っている。
 今の大学は入学式前に、オリエンテーションがたくさんあるからだ。
 まだ、入学式も終わっていないのに、いやというほど、オリエンテーションに参加しなければならない。
その中の一つに「キャリアデザイン入門」というオリエンテーションがあった。
 高校でもキャリア教育の授業があったから、どうせ、将来について考えさせるための類のオリエンテーションだろう。
 参加は必須ではなかったが、空き時間だったから参加してみた。
 教室に入ると、思いのほか学生は多い。
 みんな将来への不安があるのだろうか。まだ入学したばかりだというのに、もう卒業後のことも考えなければならない。
 壇上には、四十がらみの男性がマイクを持って立っていた。
「まずはご入学おめでとうございます。入学して、いきなり就活や将来のことに向き合わなければならないって大変だと思います。私が学生のときには、キャリア教育そのものがありませんでした。大学は主体的に行動する必要があります。そして、社会は主体的に、つまり自分で考えて動ける学生を歓迎します。この大学生活をどのように過ごすかで、あなた自身の将来もきっと変わってきます。正解はないかもしれないけど、より納得感の高い人生を歩みたいと思いませんか?」
 徐々に教室が熱気を帯びていく。
「今日はファーストステップです。皆さんは大学に少し慣れてきましたか?このオリエンテーションも今日が終盤です。アンケートの集計途中ですが、みなさんの関心の多くは将来のことで頭がいっぱいのようです。一番最初のオリエンテーションで、アンケートを取りましたが、結果がここにあります」
 講師は、手に持ったアンケート結果の用紙に視線を落とす。
「就職と資格についての悩みが多いようです」
 私も就職と資格には〇をつけて、アンケートを出した。
「このアンケート結果からいえることは何でしょうか?皆さんも少し考えてみましょうか?シンキングタイムです。先ほど言った主体性です。自ら考えることが大切なのです」
 黒のスーツに黒のシャツ、黒のネクタイ姿の講師は、学生が考えている間、教室内をぐるりと歩き回る。嫌な予感がした。それはすぐに的中する。
 私の前で立ち止まり、マイクを向ける。
「名前はけっこうです。さぁ、どういうことが言えますか?」
 私は教室全員の視線を一身に浴びた。人前で話すことが苦手なのだ。心臓が早鐘を打ち始めた。
 黒づくめの講師は、穏やかな表情をしている。
「大丈夫。自分の考えを言ってみてください」
 私は勇気を振り絞って答えた。
「えー、あの……みんな将来が不安だということだと思います」
 ごく当たり前のことを言って、さらに汗が滲んでくる。
「ありがとうございました。彼女に拍手を!」
 講師は壇上に戻りながら、「彼女の言ったことも正解です」と答える。
 私の胸に安堵感が広がっていく。緊張はしたが、少しだけほんの少しだけ自信のようなものが芽生えている。人前で話すことは苦手だが、逃げてはいけない。
「そうなんです。彼女が言ったように、将来が不安なのは、自分だけではないんです!あなたもあなたもあなたもここにいるほとんど全員不安なんです」
 講師は熱弁をふるっているが、汗一つかかないし、言葉を噛まない。
「今日、皆さんにお伝えしたかった一番のことは、そう……」
 講師は右の人差し指を上に向け、矢印のように頭に持っていき、断言した。
「みんな不安や悩みを抱えている。そう思ってこれからの大学生活を過ごしてください。大人だってそうです。私も今、とても緊張して皆さんの前で話しています」
 私は内心それは嘘だろうと思った。
「嘘だと思った人いますね。事実なんですよ。では、なぜ緊張している私がこんな大勢の前で自信たっぷりに話せるか?それは私が準備を怠らないからです。段取り七分とか八分という言葉があります。物事は、ほとんど準備の段階で勝負は決まるのです。もちろん、場慣れもあります。経験がものをいう場面もあります。しかしながら、準備は最善を尽くします。社会に出るまでの、四年長いと思いますか?短いと思いますか?」
 主体的に考えてみた。きっと短いと私は思う。
「人それぞれ、考え方や感じ方は違いますが、おそらく短いと思います。答えは四年後になります。楽しみにしておきましょう。皆さんが今日の講義を覚えていたらの話ですが」
 講師は笑いながら、締めくくる。
「今日は入門編です。今後、キャリア教育入門という授業の中で、続けていきますので、興味のある方は是非履修してみてください」
 無事にオリエンテーションが終わると、先ほどの講師が私に近寄ってきた。にやにやしながら、猫背で私に向かってくる。
「あなたすごく緊張していましたが、人前で話すのが苦手ですね」
「はい」と言うしかない。

「それでいいんです。苦手なことにどんどん向き合ってください。短いと言っても四年間あります。たかが四年されど四年。ものは言いようですね。あなたは若い。いくらでも自分を変えることができる」
 講師はそう言い残して、立ち去ろうとした。私は後ろ姿に声をかけた。「あの…名前聞き逃しました。教えていただいてよろしいですか?」

 男は「桐屋」と名乗った。教室を出ていく桐屋先生の背中を見つめながら、これからの大学生活を主体的に過ごそうと私は心に誓った。

●本日の桐屋の言葉
「誰もが不安や悩みを抱えている」

 今の大学生は入学と同時に、卒業後のことを考えなければならない時代です。その昔、大学はレジャー化したと言われました。そんな悠長なことは言ってられない時代になってきました。

 学生も悩むけど、大人も悩む。人間誰でも不安を抱え、悩みを抱えています。自分だけではないという思考を持てるかどうかで世界の見え方が少しだけ変わってくるような気がします。

●おススメ図書

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン)

 2007年生まれの日本人の半数は、107年以上生きると予想されています。生き方、働き方も変えていかざるを得ません。どう長寿化社会を生き抜くか、すなわち人生戦略の一つの答えが本書にあります。著者・リンダ・グラットン氏は、安倍首相が意欲を示す2017年発足「人生100年時代構想会議」の一員です。

※上記の紹介文はある書店のサイトに掲載されています。コピペですが、原稿は私が書きました。ですから、厳密にはコピペではありません。まさに雑文屋ですね(笑)

 この本で気になった箇所は下記の通りです。

P7 就職、引退の常識が変わる→著者は「じっくり時間を取ってさまざまなキャリアの選択肢を検討し、世界について学び、労働市場の未来をよく理解したほうがいい」と説いてます。

P87 「雇用環境の変化を正しく理解する必要がある」→「正しく」というところがポイントですね。情報の洪水で取捨選択、見極め決断する思考力が問われます。

p88 「長寿化には、不確実性に対処することが避けて通れない」→長くいきるということは、それだけ社会の変化に対応しなければなりません。

P237 「『あわてて決断、ゆっくり後悔』ということわざは、100ライフにはひときわ重要な金言なのだ」→失敗のリスクを取れるか、厳しい選択かもしれませんが、100年生きるには早い決断での進路変更も時には必要。

p292 「70年ライフと100年ライフで私たちが経験する時間に違いはあるのか?」→もちろん何十万時間違います。戦略的にどう生きるか。私のように急に予期せぬ病気になってしまった場合も含めて考えてもいいかもしれません。





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